精神障害で自傷や他害の恐れがある人を警察が把握した際、保健所に知らせる「警察官通報」という制度がある。医療に適切につなげる狙いだが、警察から通報を受けた保健所職員らが現場に行かずに医師の診察を不要と判断し、入院にならないまま自殺に至るケースが起きていることがわかった。制度の適切な運用に向け、警察は今年、改善に動き始めた。

 警察官通報制度は精神保健福祉法に基づく。警察関係者によると、昨年は全国で1万8611人分の警察官通報があった。最多は3013人の東京で、神奈川1612人、埼玉1419人、大阪1360人、兵庫1229人と続く。全国の通報は年々増加し、この5年間で約1400人増えた。

 警察から通報を受けた保健所などの職員は、原則現場に行って対面し、医師につなげるか判断する事前調査を行う。厚生労働省がガイドラインで定める。夜間や休日でも職員が迅速に対応できるよう、態勢の整備も必要だとしている。医師は診察のうえ、強制的な措置入院をさせるかどうかを決める。

職員の臨場率 大きい地域差

 昨年の職員の臨場率は、都道府県の8割で80%を超え、栃木など7県では100%だった。一方で、都市圏の神奈川や大阪、兵庫は30%台。東京は唯一の0%で、地域差が大きい。

 警察官通報が診察につながった割合を見ると、保健所職員の臨場率が5割以下の東京など6都道府県が平均で39.6%なのに対し、それ以外の41府県は59.4%で、差があった。職員が臨場しない地域は診察につながりにくい実情がある。厚労省は「遠隔では判断がうまくできず、医療に適切につなげられない可能性がある」とする。

 警視庁によると、都内では自殺を図って保護された人が診察につながらず、その後に自殺した事例が複数あった。職員による判断は電話口で行われ、診察が不要とされれば警察は家族らに引き渡すしかない。家族の求めで警察が自ら病院へつなげることもあるという。職員が臨場しないために、警察官が長時間保護に当たるなど、現場の負担も増している。

 警察庁は今年4月、状況の改善に向けて自治体を指導するよう、厚労省に申し入れた。都道府県警に対しても、厚労省のガイドライン通りに警察官通報を運用するように指示。5月に全国の幹部を集めた会議では、露木康浩長官が適切な運用に向けて指導を徹底するよう訓示した。(板倉大地、御船紗子)

火を放った男 通報もなぜ医療につながらなかったか

 昨年10月、浜松市の住宅街で火が上がった。民家など16棟が焼けた大火で、自宅に放火したとして男(89)が逮捕された。捜査関係者によると、男は事件1カ月前に近所で自殺をほのめかして警察官通報されたが、診察につながらなかった。

 このケースでは、警察官通報…

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