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渡辺将人さん

慶応大学准教授 渡辺将人氏

 米大統領選で2度目の当選を果たしたトランプ前大統領は、得票総数で初めて民主党候補を上回った。裏返せばリベラル側が多数派の支持を失ったことを意味する。民主党候補の選挙実務を担った経験を持ち、有権者の動向に詳しい政治学者の渡辺将人さんに聞いた。米国のリベラルはなぜ、失敗したのか。

米国の白人労働者は保守的な「文化集団」

 ――米大統領選での敗北は、民主党内でどのように受け止められていますか。

 「ワシントンで民主党幹部らに話を聞いたところ、『労働者のために尽くす、と全身全霊で語らなかったのが失敗だった』という反省をしていました。『価値観がぶつかり合う文化戦争になり、労働者層の反発を招いた』という声もありました」

 ――労働者の支持を失ったのが敗因だった、と。

 「ええ、生活苦に対する労働者たちの不満に加え、米国の文化的な分断が勝敗を左右したと思います。米国の白人労働者は、経済的階級である以前に保守的な『文化集団』です。銃所持の権利を大切にし、敬虔(けいけん)なキリスト教信者で、異人種間結婚なども望まない生活保守的な人が少なくない。文化的にリベラルな主張は彼らを遠ざけます」

 「経済的に苦境にあることとリベラル的主張が結びつかない風土が米国には元々ある。日本では平和・人権問題などのリベラルなデモに労働組合が参加して連帯を訴えることがありますが、米国では選挙運動以外でそういうことはありません」

 ――リベラルな主張は、労働者の支持を得にくいのですね。

 「思われているほど米国は文化的にリベラル一色ではありません。少数派の権利や銃規制に熱心なのはニューヨークやサンフランシスコなど東西沿岸の人口密集地の住民で、それ以外の地域には保守的な人も多い。中西部には狩猟文化があり、家族と鹿狩りをする季節には小学校が休みになる。だから民主党は政権を取っても銃を全面規制しないなど文化保守的な有権者の思いもくみ上げてきました」

 「今回の大統領選でハリス陣営は、本人もハンターで全米ライフル協会から支持されたこともあるミネソタ州知事のティム・ウォルズ氏を副大統領候補にした。それでも、文化的に進歩的すぎると労働者に敬遠されました」

党内で穏健派が支持基盤を失ったきっかけ

 ――今の民主党はリベラル色が強い印象です。

 「近年、党内中道派は勢力を…

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