10月2日は国連が定めた「国際非暴力デー」ですが、子どもから親への暴力事件が増えています。警察庁のまとめによると、子どもが加害者となる事件は年間約4700件に達し、過去30年間で約6倍に急増しました。一方、公認心理師・臨床心理士の信田さよ子さんは「被害に遭っている親が相談できる場がほとんどない」と指摘します。なぜこのような状況が生まれているのか、その背景について信田さんに聞きました。
――家庭内暴力といえば、夫婦間のDVや、子どもが虐待されるケースが思い浮かびます。
1980年代までは、家庭内暴力は「子どもから親への暴力」を指していました。その頃、児童精神医学の国際大会が日本であり、私も参加したのですが、日本人の演題はこの件ばかり。外国人の司会者が「日本に配偶者からの暴力はないのか」と尋ねると「そうです」と答える姿を目の当たりにしました。
当時、親に暴力をふるう子どもは精神科病院に入院させられることが多く、DVや児童虐待という言葉も広まっていませんでした。
日本では夫が妻を殴っても「妻が悪い」とされていたし、子どもへの暴力はしつけやせっかんの一つ。反対に、子どもが親を殴ることは権力構造に対する反逆なので、「暴力」とされて問題視されたのです。当時は校内暴力とともに、注目を集めていました。
でもそれが、いつのまにか見えなくなり、今は家庭内暴力と言えば、おもに配偶者へのDVを指しますし、親から子への暴力(児童虐待)のほうが注目されるようになりました。その転機は90年代でした。
今も存在しない「親への暴力防止法」
――何があったのでしょうか。
バブル崩壊に伴い、孫請けの…