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長峰山に立つ長島美樹さん。故郷の街並みの向こうに北アルプスが見えるお気に入りの場所だ=2024年12月、長野県安曇野市

 眼下に広がる雲海が赤く染まり、まぶしい光がこぼれ出す。ひんやりとした空気の中で見るご来光はいつだって格別だ。

 長野県安曇野市の長島美樹さん(50)は夏、登山ガイドとして北アルプスで朝を迎える。登山客を安全に目的地へと案内し、時には1週間にわたって縦走も率いる。

 信州登山案内人(長野県認定登山ガイド)や市の地域通訳案内士の資格を持つ。英語に中国語なども交え、外国人からの引き合いが絶えない。

 でも、「山は見るもの」と思っていた。38歳で東京からUターンするまでは。そして夫を失うまでは。

「運動が苦手な私が……」

 長島さんは明科町(現・安曇野市)で生まれた。父の転勤で2歳のときに都内に移り住み、中学1年生の冬に故郷へ戻った。

 安曇野平の向こうにそびえる北アルプスの常念岳を眺めるのが好きだった。ただ、それはあくまで風景の一部としてで「運動が苦手な私が足を踏み入れられる場所ではないと思っていました」。

 高校を卒業後、上京してスペイン語を学んだ。リュックを背負いアジア各地へ旅に出た。

 卒業後は大手出版社に入社し、情報誌の営業職や編集者として働いた。日付が変わるまで仕事に追われ、そこから同僚と飲みに行く日々。29歳で8歳年上の元上司と結婚し、34歳で母親になった。

「故郷で子育てがしたいね」

 今度は仕事に育児も加わった。職場からの景色はどこまでもビルが続く。季節の移り変わりが実感できない。息苦しさを感じ、栃木県出身の夫と「安曇野で子育てをしたいね」と語り合った。

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長男を抱っこする長島美樹さん=2010年、東京都内、本人提供

 37歳の夏、暮らしは一変する。夫が突然病に倒れた。意識が戻らないまま翌年、他界した。

 かなしみと疲れの中、4歳の息子を連れ、安曇野市の実家に戻った。

 父親不在の子育てに不安を抱いていたとき、友人に誘われて訪れた市内の光城山(標高911メートル)で、人生を変える出会いがあった。

大先輩がくれた言葉

 山の入り口で70歳の女性と…

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