カゴメを早期退職し、日本語教師に転身した土橋さん。毎日ジムで汗を流し、サックスとバレーボールの練習にも週1度ずつ通う。私生活も充実の一途だ
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 「私は甘いものは食べません」

 教壇に立つ土橋隆夫さん(55)がそう話しかけると、タイやベトナムなどアジア各国から来た留学生たちが「どうして?」と尋ねる。「ダイエット中だからです。甘いものが嫌いな『わけではありません』」

 土橋さんの返答に、「あー」「なるほど」と声が上がった。

 日本語の「わけではありません」の使い方を学ぶ授業。土橋さんは今年5月から、都内の日本語学校の非常勤講師としてセカンドキャリアを踏み出した。

 昨年9月まではカゴメに勤めていたが、自ら早期退職を申請して辞めた。「年齢的に早すぎないか」。周りに心配もされたが、まったく未練はなかった。

 1992年のバブル入社組。一貫して営業畑を歩んだ。リコピン含有量が高い生鮮トマトを全国流通させる新規事業などで実績を上げ、同期の中では早い37歳で課長に昇進した。だが、その後は上司の推挙にも恵まれず、部長にはなれなかった。

 40代後半にさしかかった頃、父が81歳で他界し、母も79歳で亡くなった。50歳になると妻から離婚を切り出され、一人娘と犬も連れて出て行かれた。離れて暮らす妹はいるが、めったに会わない。

 「一人」になった。

長年尽くしてきた組織で定年まで勤め上げるか、それとも新たな一歩を踏み出すか……。50代で選択の岐路に立たされた2人の男性の物語です

 この先、どう生きるか。自分…

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