夫婦が希望すれば、結婚後もそれぞれ旧姓を選ぶことができる「選択的夫婦別姓」制度の導入を求める声が高まっている。広く使われるようになった通称も、経済界から弊害が指摘され、国会での議論の停滞ぶりが際立っている。
横浜市に住む会社員の女性(35)と、大学院生の男性(35)の夫婦は、婚姻と離婚の届け出を3年ごとに出し、それぞれの姓を名乗っていた時期がある。
男性が振り返る。妻の姓での給与明細、投票券、ワクチン接種券。「自分が消えていく感覚があった。実際に名字を変えてみて初めて気づく、つらさだった」
女性は転職をきっかけに、通称使用が認められなくなる経験をした。名刺も、メールアドレスも「自分ではない名前」で営業に回り、帰宅後、悔しくて泣いた。「ある日いきなり自分の名前が奪われる。別の名前で呼ばれ、暮らし、働くしかない。暴力的だった」
以前取材に体験を明かすと、「親に悪い」「総務課の手間を考えろ」などと見ず知らずの人から誹謗(ひぼう)中傷を受けた。女性は職場では嫌みを言われ、プライベートでは酒席で何度も絡まれた。ただ、ここ数年は周囲の変化も感じる。「時代が進んで多様性も浸透したのか、職場でもプライベートでも、『別姓にしたいから(事実婚にしている)』と言ってすぐ通じるし、『そういう考えもあるよね』と尊重され、いじられることもなくなった」。同じように別姓を望んで事実婚をするカップルも周囲に増えた。しかし、政治は動かない。
内閣府による2022年の調査では、婚姻届を出す夫婦のうち95%が、女性のほうが改姓している。しかし、政治の意思決定層は依然として男性が大半だ。
「自分が名字を変えることを…