TSMCとは何者か
半導体の受託生産で世界シェアの過半を握り、最先端の半導体をつくる「TSMC」。その影響力の大きさに比べて、実像はあまり知られていない。台湾の関係者の証言をたどり、「世界一」と称される理由を5回連載で探る。
人通りがほとんどない日曜日の新竹科学園区で、そこだけが活気に満ちていた。
世界でまだ量産が実現していない「2ナノ」半導体を製造する、TSMCの新工場の建設現場だ。
仕切りで囲われた先は見渡せないが、せわしくダンプカーが行き交う。眺めていると、5分もしないうちに警備員が出てきて、手で追い払われた。
来年には最先端の「2ナノ」半導体がここから世界中に出荷される。
半導体は、刻まれる回路の線幅が細いほど性能が高い。
2000年代初めに「ナノ」(1ナノ=10億分の1)の世代に突入すると、30年足らずで2ナノに行き着いた。
物理的な限界に近づいているとも言われるが、TSMCは、ナノの10分の1にあたる「オングストローム」世代の研究開発に取り組んでいるとされる。
TSMCに詳しい台湾のジャーナリスト林宏文氏によると、TSMC創業者の張忠謀(モリス・チャン)氏は、「これからの20年は成長を続けるはずだから問題ない」と見通したという。他社に追いつかれることはないという意味だ。
製造以外への進出「絶対にない」
新工場の建設現場から少し離れた本社近くに「台積創新館」という施設がある。
TSMCは、台湾では正式名称「台湾積体電路製造」を略した「台積電」と呼ばれる。施設は、その技術や歴史を紹介している。
展示品の中に、創業前の19…