4月から始まった「医師の働き方改革」で、時間外労働の上限は、特例として年1860時間(月155時間相当)まで認められました。過労死ライン(月80時間相当)の2倍近い長さです。
これを決めた2019年、抗議して厚生労働省の検討会副座長(当時)を辞任した渋谷健司医師(58)=東京財団政策研究所=は、「長時間労働を当たり前とする日本の医療文化を変えるチャンスだったが、『パンドラの箱』を開けられず、現状維持に終わった」と振り返ります。
詳しく聞きました。
略歴
しぶや・けんじ 東京大医学部卒、米ハーバード大で公衆衛生学の博士号取得。WHO(世界保健機関)、東京大教授、英キングス・カレッジ・ロンドン教授などを経て現職。福島県相馬市で新型コロナワクチン接種を支援。政府審議会の座長や副座長も歴任した。
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――医師の働き方改革の目的を教えてください。
日本医療は、医師の使命感と自己犠牲による長時間労働に支えられてきましたが、それを罰則付きで規制し、医師の健康を確保しようとするものです。
一方、労働時間が短くなれば、地域医療に悪影響がないかと心配されてきました。二律背反する難しい課題です。
――ご自身の見解はいかがですか?
現場の医師は、患者を救いたいという使命感が強かったり、大学病院では教授に逆らえなかったりして、自分で労働時間をセーブすることは難しいものです。
時短が改革の目的ではありませんが、まずは時短をすることで、結果として医療界の旧態依然とした文化が変わると考えました。
労働時間という限りある資源を病院や地域の中でどう配分するか。これは病院の経営者たちがトップダウンで進めるしかありません。
17年から始まった厚労省検討会の議論には、「現場の医療者の声にならない声を届ける」という覚悟で臨みました。
経営側、医師の健康へ薄い危機感
――どうなりましたか?
検討会の病院経営側のメンバ…