「今の調子はどうですか?」「希望する区間は?」
次々と飛んでくる質問に、国学院大の山本歩夢は胸を締め付けられた。昨年12月、箱根駅伝を控えた報道陣の合同取材会でのことだった。
「僕は本当は走れないのになぁ……」
当時3年生だった山本は、右大腿(だいたい)骨を疲労骨折していた。
痛みの強さから、箱根駅伝の出走は絶望的だった。
それでも、主力の山本がエントリーしていることは他校への牽制(けんせい)になる。戦略的な理由で16人の登録メンバーに名を連ね、合同取材会にも出席した。
走れないことを明かすわけにはいかない。かといって、質問に適当な態度で答えるわけにもいかない。
「『無』でしたね。記者の方も色々聞いて書いてくださっているのに、申し訳なくて」
山本が万全なら任せられるは…