数年前の夕方だった。病棟を回診して医局に戻ったとき、右手にしびれを感じた。指も思うように動かない。
「おかしいな」
大学病院に勤める男性医師は、そのまま意識をなくし、倒れた。脳出血だった。
- 【連載初回】「労働時間減らせば、島民の命が…」 島で唯一の循環器医は葛藤する
20年を超える勤務医生活は、長時間労働が当たり前だった。
朝6時台に家を出て、帰るのは午後11時近く。夜中の呼び出しも多かった。
大学教員として、学生や若手医師への指導、論文作成や学会発表に力を入れ、月に2~3回は出張にも出かけた。
働き方に疑問を持ったことはなかった。患者を救いたいという使命感、仲間と危機を乗り越える達成感が勝った。
ただ、倒れる直前は、夜中に呼び出されて5~6時間の緊急手術をする日が続いた。そのまま病院に泊まり、翌日の夜まで働く日もあった。
「さすがにつかれた」
勤務医になって初めて妻に弱音を吐いた。倒れたのは、その直後だった。
脳出血の後遺症によって、メ…