海に近い、半壊した自宅。
前田しげ子さん(72)=石川県珠洲市三崎町=が夫の写真に手を合わせるようになったのは、昨年11月ごろのことだ。
写真の中の夫は海の道具を背に、長靴姿で笑っている。
今でも「海に出たままなんかなあ」と思う。
隣には4月に生まれた孫娘の写真。会えるのを楽しみにしてたのにね。
あの日から、1年。
【連載初回】家族と過ごした元日
昨年の元日、最大震度7の激しい揺れが能登半島を襲いました。能登の人たちは家族や友人らと楽しい正月を過ごしていました。
「今日は行かんでいいんじゃない」
昨年の元日、午後3時半過ぎ。近所の友人宅に行くという夫、進さん(当時74)の後ろ姿に前田さんはそう声をかけた。
奥能登を最大震度7の地震が襲ったのは約30分後。
揺れが収まると、金沢から帰省していた長男の洋一さん(45)と次男の孝さん(38)、次男の妻の麻衣さん(35)とともに自宅の外に飛び出した。
洋一さんと孝さんは、父が向かった近所の友人宅へ駆けていった。
防災行政無線が大津波警報の…