練習後、仲間に語りかける主将の高橋佳佑。佑輔コーチは兄で、2018年夏の甲子園準優勝メンバー
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人口減ニッポン 高校野球の今④秋田・金足農

 「雑草軍団」の物語には、続きがあった。

 6月下旬、金足農(秋田)の野球場。マウンド上にふてぶてしい立ち姿の右腕がいた。最速145キロ。どっしりした下半身とその雰囲気からひと目で「弟」だと分かる。

 「兄さんを超えたくてこの学校に来た」

 2年生エースの吉田大輝は、2018年夏の全国選手権で同校を準優勝に導いた吉田輝星(オリックス)を兄に持つ。

 小学5年生だったあの夏、全試合をアルプス席から応援した。「兄さん」たちは地元出身の3年生9人で戦い、横浜や日大三(西東京)など強豪を次々破り、体をのけぞらせて校歌を歌った。

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 07年に全国制覇を果たし、「がばい旋風」と呼ばれた佐賀北以来となる公立校の決勝進出。「金農旋風」は秋田県だけでなく、全国のファンを沸かせた。

 大輝は「ひまさえあれば」映像を見返して育った。マウンド上のしぐさは自然と兄に似た。

 少子化の影響は金足農にもある。昨年まで3年連続で定員割れ。中学で実績を残した大輝も県外の強豪私学への進学が頭をよぎった。

 だが、「違う学校で甲子園に行っても面白くない。それに、佳佑さんの存在もあった」。

 主将の高橋佳佑もまた、準優勝メンバーの弟。大輝とは6年前、一緒に声をからした仲だ。1年先に入学し、「金農に来いよ」と誘った。

 入学当初、チームは苦しんでいた。19年以降、昨夏まで県内で一度も8強に進めなかった。それが、弟2人が中心となり、昨秋の県大会を23年ぶりに制した。

 再び「旋風」は起こせるのか。金足農の後、公立勢で夏の甲子園4強以上に進んだチームは19年の明石商(兵庫)だけだ。それでも、高橋の兄で昨春からコーチに就任した佑輔さん(23)は、あの夏を「奇跡」だったとは捉えていない。

 「何かを徹底して究める。そうすれば私学にも勝てる」。あの世代は1点をもぎ取るため、ひたすらバントとスクイズ練習を繰り返した。ミスをすれば、けんかするほど指摘し合う。その成果が近江(滋賀)との準々決勝、九回の逆転サヨナラの2ランスクイズだった。

 「吉田(輝星)だって、嫌いなバント処理をがんばっていた。こつこつやった先に準優勝があった」

 佳佑も言う。「小さい頃は輝星さんがすごいチームだと思っていたけど、高校生になって映像を見返すと、一つひとつのプレーが徹底されていて、チーム力がある。参考にしている」

 春は県大会の初戦で負け、夏はノーシードからの挑戦。8日の2回戦で昨夏王者の明桜と当たる。兄たちの代も最大のライバルだった相手だ。

 佳佑は「疲れがない最高の状態で戦える」と歓迎し、「春は一番下だったので、夏は頂点まで上ります」と話す。大輝は「自分はおらおらと声を出して投げるタイプ。気迫で圧倒したい」と力強い。

 踏まれても、何度だって雑草のように立ち上がる。兄たちから受け継ぐ伝統だ。(大宮慎次朗)

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