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国際教養大のモンテ・カセム学長=2024年11月22日、秋田市、滝沢隆史撮影
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 すべて英語によるディスカッション中心の少人数授業、キャンパスの4人に1人が留学生、世界200超の大学と提携した1年間の海外留学義務……。独自のリベラルアーツ(教養)教育が注目を集める、秋田市にある公立の国際教養大(AIU)が開学20周年を迎えた。3代目学長のモンテ・カセム氏に、人気の要因や今後の戦略などを聞いた。

 ――受験生からの人気は高く、学生の就職も引く手あまた。成功した理由をどのように感じていますか

 国際的なリーダーの養成をめざした初代の中嶋嶺雄学長は、国際社会で対等にコミュニケーションがとれるようにと、英語での発信力と多文化理解に力点を置きました。さらに、2代目の鈴木典比古学長が、リベラルアーツの考え方に基づいてカリキュラムを再編成し、人間力の醸成にもこだわりました。

 そのうえで、しっかりと勉強をさせる。4年間で卒業できる学生は半数程度です。一定の水準に達しなければ卒業させない、という厳しさが良かったのだと思います。

 ――リベラルアーツを学ぶ重要性を教えてください

 リベラルアーツは良い人間になる土台、倫理観、哲学、道徳観を大切にする学び方で、「統合知」と呼べるような学際的な専門性を育てます。日本ではリベラルアーツは文系にくくられますが、米国では医学や科学を学ぶ人もリベラルアーツの基盤に立っています。日本のように文系、理系に分けて、たこつぼ化する傾向への抵抗が、AIUの問題意識としてありました。

 現代の課題は複雑な問題が絡み合い、いろいろな知識がないと解決できません。専門だけにこだわりすぎると、俯瞰(ふかん)的に物事が見えなくなります。学際的に物事を見る力が、リーダーに求められる素養です。

 ――ネットにあふれる情報を取捨選択する力もリベラルアーツに欠かせません。SNSには真偽不明の情報も散見されますが、学生や若者はネットの情報とどのように付き合うべきでしょうか

 遮断するのは無理だし、無意味。しかし、SNSは自分の好みに近いものしか受け付けないバイアスがかかりやすくなっています。信頼できるサイトからしか情報を得ないなど、自分なりの習慣やルールをつくるべきです。大学では批判的思考力を養い、うそと真実を見極める力を身につけてほしい。

 ――急激な少子化で大学間の競争はますます激しくなります

 質の高い教育を保証する努力をし続ければ、大きな打撃は受けないでしょう。ただし、18歳人口だけをターゲットにしている時代は終わります。大学は川上である中高生だけでなく、川下に広がる社会人やシニアまで幅広い層にとっての学びの場へと変化していかなければなりません。

 最近も中高一貫校を開学させる愛知県教育委員会と提携を結び、どんな教育がふさわしいのかを一緒に考え始めます。社会人教育でも、リカレント教育で大学に戻ってくるようなプログラムを考えたい。

 ――AIUの向こう10年間の長期ビジョンでは、地域課題に即した研究成果を掲げています

 秋田が抱える課題は、人類に共通する普遍的な課題が多い。世代間の交流で高齢化社会の健康寿命を延ばす取り組みのほか、モビリティーや気候変動対策など、秋田県内だけで解決しようとせず、多様な人々を巻き込み課題解決に取り組むことで、地方に価値を創造する大学を目指します。

 ――東大など学費の値上げ問題も大きな議論を呼びました

 単純な学費の値上げもせざるをえないかもしれませんが、構造的に高等教育に流れるお金の仕組みを変えないといけません。(AIUのような)日本の公立大は、設置した地方自治体のエリアに縛られると無意識に思い込んでいるように感じます。しかし、米国のカリフォルニア州立大が世界に拠点を持ってカリフォルニアの枠にとどまらないように、日本の公立大もいろんなところへ自由に出て行き、新しい価値を創造する仕組みを真剣に考えるべきです。

モンテ・カセム氏略歴

 モンテ・カセム 1947年、スリランカ生まれ。スリランカ大建築学科を卒業後、国費留学生として来日し、東大大学院で都市工学を専攻。国連地域開発センター主任研究員、立命館大教授、立命館アジア太平洋大学長などを経て、2021年から現職。

国際教養大とは

 2004年に秋田市郊外の旧ミネソタ州立大秋田校の跡地に開学した単科大学。行政から独立して運営される全国初の公立大学法人として秋田県により設立された。初代学長は、東京外国語大学長などを務めた中嶋嶺雄氏(故人)。全授業英語、1年間の海外留学義務など独自のカリキュラムのほか、秋入学や24時間365日開館の図書館など先駆的な取り組みでも知られる。交換留学制度を採用しており、高額な留学先の授業料は国際教養大の授業料(年間約70万円)を納めれば免除される。

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