祖父母の代から家族で酪農を営んできたマチュー・カルパンティエさん(35)は、穏やかに草をはむ自分のウシたちを眺めていた。
フランス北部オワーズ県にある農村。なだらかな起伏の丘に広がる牧草地で、欧州連合(EU)とフランス政府への失望を口にした。
「環境保護に肩入れしすぎだ。意思決定できる政治家たちは理想ばかり語り、すべての人々の利益のために働く使命を忘れている」
EUは2019年、「欧州グリーンディール」を発表した。温室効果ガスの排出量を50年までに実質ゼロにする目標の一環として、加盟国のすべての農家が農地の4%を休耕地にすることを義務化。30年までの化学農薬の使用半減や全農地の25%を有機農業にすることも定めた。
気候変動対策や生物多様性と、経済成長とを両立させる。そんな理想を描いたものだった。
欧州では近年、気候危機を背景に環境政策が各国で大きな政治的争点になってきた。前回19年の欧州議会選では、ドイツで「緑の党」が2番目に多い議席を獲得するなど、環境政党の会派が伸長。結果を受け、EUは先進的な環境規制を加速させた。
【連載】揺らぐEU 「理想主義」の足元
右翼政党の台頭、止まらぬ難民・移民の流入、ロシアのウクライナ侵攻……。今、EUで何が起きているのか。6日に始まった欧州議会選を前に、記者が現場を歩きました。
だが、それは各国の農家の多…