板間のリビングから富士山の山頂と雄大な尾根が見渡せた。庭に出ると国内標高第2位の北岳が現れる。
別荘が点在する山梨県北杜(ほくと)市長坂町の高原地帯に、藤田紳一さん(60)、恭子さん(57)の自宅がある。
登山が趣味の藤田さん夫妻は2022年に移住した。「山好きにはたまらない。日帰り登山できる山がたくさんあります」
夫妻はそれぞれ東京都心の大手企業で働く会社員だった。
紳一さんは共同通信の記者。社会部では災害取材で三宅島、有珠山の噴火現場に赴き、南極にも派遣された。
特に関心があるのは山。高校で山岳部、大学で登山サークルに所属して以来、登山のとりこだ。
50歳を過ぎた頃、かねて夢見てきた登山ガイドに転職したいという思いが強くなった。相次ぐ山岳事故の報道に接し、「安全な登山のために力を尽くしたい」と考えた。
年齢や体力を考えると、時間はそれほど残されていない。でも、恭子さんには打ち明けられずにいた。「登山ガイドの収入で生活できるかな。そもそも、一緒に来てくれるかな」
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恭子さんは当時、みずほ銀行…