【動画】オリンピックを間近に控えたパリの街=河崎優子撮影
7月の五輪開幕を控え、パリの中心部の国立劇場「オペラ座」のそばの高級百貨店には、関連グッズが並ぶ。自由の象徴であるフリジア帽をイメージした公式マスコットキャラクター「フリージュ」のぬいぐるみや、「パリ2024」と書かれたトートバックを買い求める観光客でにぎわっていた。
その華やかさとは裏腹に、近くの駅からパリ北郊へ向かう地下鉄に乗ると、観光客の姿は徐々に消えていく。20分ほどで着いた駅では若い男性4人が、次々と改札のバーを飛び越えて地下鉄に駆け込んでいた。その姿を見たパリ在住の日本人男性は「よほどのことが無い限り、この地域には立ち寄らない」と話した。
フランス語で「バンリュー」と呼ばれるパリ周辺の地域は、移民が多く住む貧困地区として知られていた。ただ、五輪の開催に伴う再開発で、急速に街の姿が変わりつつある。
都心から延伸した地下鉄14番線の終点駅は、選手村の徒歩圏内。6月末の開通に向け、木材をふんだんに使い、自然光が降り注ぐ開放的な駅舎が完成した。東京五輪のメイン会場だった新国立競技場も手がけた世界的な建築家の隈研吾氏が設計する。
大会後に約6千人が移り住む予定の選手村など五輪関連施設の大規模な開発を担うのが、仏政府の省庁の大臣や自治体の代表者からなる建設公社「ソリデオ」だ。職員が2012年に五輪を開催したロンドンを何度も視察。アントワーヌ・デュ・ソイッシュ戦略部長は「街を変容させたロンドンとは類似性があり、インスピレーションを受けた」と語る。
生まれ変わった貧困地区
招致レースで、ロンドン市は「五輪をイーストエンド(東部地区)の再開発の起爆剤に」と掲げた。東部地区の公園にはギャングがたむろし、工場跡の土壌汚染も深刻で、西部地区との格差は顕著だった。
しかし、大会を機に選手村を中心とした東京ドーム48個分の土地が再開発された。五輪スタジアムはプロサッカーチームの本拠地となったほか、新しいマンションも立ち並び、様々な人種の老若男女が、カフェやレストランのテラスで食事を楽しむ街に変わった。
再開発に伴い地区の平均所得は市の平均に追いついた。ただ、肉屋を営むマックス・パーソンズさん(22)は「五輪後に中間層から富裕層が入り、20年で店の賃料が15倍になった」と話す。
流入する富裕層 誰のための開発?
地方議員として開発に関わったニック・シャーマンさん(76)は再開発で住宅の賃料が上がり、家主から追い出された多くの家族から相談を受けた。「貧困は無くなっていない。周縁に出て行っただけだ」と、もどかしそうに語る。
A-stories 合わせ鏡のオリンピック 東京とパリ
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