
本当に「飛ばないバット」なのだろうか。
東洋大姫路(兵庫)の選手たちが放つ打球を見て、思わず疑った。練習でも試合でも、屈強な肉体から強烈な当たりが止まらない。
「『折れない木製バット』とでも言えばええのかな」。昨春から導入された新基準の低反発バットを記者に見せながら、2022年春に母校に戻ってきた岡田龍生監督(63)は、語った。
「大学とか上のステージに行っても苦労しないよう、芯が小さい木製で打てるような技術を身につけさせている。しっかり打てば飛ぶ。要はパワーとコンタクト」
昨秋の県大会では準決勝、決勝と2戦連続2桁安打をマークして優勝。近畿大会や明治神宮大会では、天理(奈良)や聖光学院(福島)といった甲子園常連校にコールド勝ちを収めた。
この1年、低反発バットの対応に苦しむ学校をいくつも見てきたが、秋は公式戦15試合で計142安打。聖光学院の斎藤智也監督(61)を「低反発バットではないくらいの野球ができるチームがあるとは」と驚かせ、ライバルたちに「強打の東洋大姫路」の印象を植え付けた。
分厚い体を作り上げている場所が、岡田監督が就いた直後に完成した1千平方メートル近い広さの屋内練習場だ。打撃マシンは6台。各種トレーニング機器もそろう。大会が始まると筋トレのオフ期間を作るチームが多い一方で、東洋大姫路は2~3日に1度、ここで体を鍛える。
主軸を打つ見村昊成(3年)は入学時と比べて、ベンチプレスは40キロ増の90キロ、スクワットが100キロ増の200キロを計測した。「最初は低反発バットに苦しんだけど、今はめっちゃパワーがついて打球も飛びます」。誇らしげな彼の練習着は、ぴちぴちだ。
部で使われているのは「インボディ」という機械。筋肉量や脂肪量などを測るもので、選手たちは月1回、測定した数値を筋トレや食事など体作りの参考にする。
特に意識しているのが「除脂肪指数」だ。脂肪を除いた体の筋肉の割合を示す数値で、高いほど打者なら打球速度、投手なら球速が上がると言われる。
その数値やスイングスピードなどは、了承を得た上で保護者にもランキング形式で公開される。岡田監督は「数字はうそをつかない。サボれば落ちるし、努力すれば伸びる。評価基準として、誰が見ても客観的に納得しやすい」。豪快なチームカラーの裏で、合理的な競争原理が働いている。
前任の履正社(大阪)では19年夏の甲子園で、全試合2桁安打で全国制覇を果たした。岡田監督は当時から肉体の数値を重視しており、履正社の優勝メンバーと比べても「今は平均値がだいぶ近づいてきた」とうなずく。
対外試合が解禁になる3月までは、ほぼ毎日のようにシート打撃、そして週末には紅白戦を行った。実戦に近い状況を増やし、「生きた球」を芯で捉える感覚を磨いてきた。秋は打率5割だった白鳥翔哉真(ひやま)(3年)は「調子は維持できている。僕らに『実戦離れ』という感覚はないと思います」
春は投手力――。高校野球界には、そんな定説がある。低反発バットの影響で、この選抜はさらに「投高打低」になるのでは、と思っていた。
ただ、岡田監督は言う。「この春は、打てたら勝てる」。その視線の先で、また鋭い打球が外野手の頭上を越えていった。