写真・図版
大阪大助教の岡田玖美子さん=本人提供

 夫婦間の「フキハラ」(不機嫌ハラスメント)の多くは、夫の不機嫌を妻がケアしている。大阪大助教で家族社会学を専門とする岡田玖美子さんは、フキハラという言葉が注目されるのは、他者を感情面でケアする「感情労働」の役割が、女性に押しつけられてきたことへの異議申し立てだと指摘する。夫婦関係はどうあるべきなのか、岡田さんに聞いた。

 ――そもそもフキハラとは。

 八つ当たりで自分の不機嫌を相手に一方的にぶつけることは、相手の気持ちを軽んじ、傷つける行為です。そこには力関係の差があり、片方が人としての尊厳を無視され続ける理不尽さはハラスメントの一種と言えます。

 ――なぜフキハラに関心を持ったのでしょう。

 仕事のストレスや不満を家で吐露し、配偶者が慰める――。家庭には、こうしたケア機能が期待されてきました。具体的には、助言する、傾聴する、感謝するといったケアを妻が提供することが多いですが、そこには限界や問題があるのではないかと考えたのがきっかけでした。

 大正から昭和初期の主婦向け雑誌にも「妻は仕事から帰ってきた夫を笑顔で出迎えるべきだ」「夫が職場で悩んでいることについて話さなくても、妻の方で察していたわるべきだ」などと書かれています。この傾向は戦後も続き、高度経済成長期に専業主婦が増えたことで、女性がより家族のケアに時間を割く傾向が強まりました。

 ――確かに、戦前生まれの私の父は家では不機嫌で、専業主婦の母がそれをケアすることが日常茶飯事でした。

 1980年代以降になると、徐々に共働き夫婦も増え、ジェンダー平等が社会全体で重視されるようになってきました。こうした変化の中で「夫は仕事で疲れたとアピールするけれど、私だって働いているのに」「今までは我慢してきたけど、私のつらい気持ちは誰がわかってくれるのだろう」と、一方的にケアの役割を負うことへの疑問が表面化したのだと思います。

 ――そもそも、家庭で不機嫌な態度は取るべきではないのでしょうか。

 外でのストレスやつらい気持…

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