被爆者のトラウマ㊦
来年は広島、長崎に原爆が落とされてから80年になります。被爆者はさまざまな病や障害を負わされ苦しんできました。1979年から被爆者治療にかかわる精神科医の中澤正夫さん(87)に、被爆者たちが抱える「心の被害」について聞きました。
- 人間そのものが信じられなくなった 「カルテ」に残る原爆のトラウマ
――被爆者が抱えるトラウマについての著作がありますね。
2007年に「ヒバクシャの心の傷を追って」(岩波書店)を出しました。原爆被害は「体」「心」「暮らし」の全般にわたりますが、心の被害についての調査研究はあまり行われてきませんでした。それで、私は心の傷について注目しました。
1979年に、いまも嘱託医を務める代々木病院(東京都)精神科に赴任して被爆者治療にかかわるようになりました。病院に被爆医療科があり、絶えず精神不安定な患者が送られてきたり、アドバイスを求められたりしてきました。
――被爆者は心的外傷後ストレス障害(PTSD)につながる、想像を絶する過酷な体験をされた方が多いのではと思います。
2003年に長崎市が被爆者手帳保持者全員を対象に行った健康意識調査(回収率72・2%)でPTSDを判定する簡易テストが使われ、PTSDの可能性が高いとされる高得点だったのは男性が31・2%、女性が32・4%という結果が出ています。
私も、多くの被爆者が重篤なPTSDをいまも引きずっていると考えています。心の被害についてPTSDを取り上げて書いたのが、前述の著作です。しかし、被爆者からは反発もありました。「そんなものではない」「PTSDに単純化しないでほしい」という反応です。なので私としては、被爆者の心の問題をPTSDに一元化することには抵抗があります。
記事の後半では、PTSDだけでは語れない被爆者の「心の被害」について、精神科医の中澤正夫さんが、自分が治療した被爆者の実例を交えながら解説しています。
――PTSDだけでは語れないということを前提としてうかがいますが、被爆者が抱えるトラウマの特徴は何でしょうか。
被爆者のトラウマは、人類史…