「嫌だ」がどうして届かない~性的同意と司法の今

 性暴力を適切に処罰してほしいとの被害者の声を受け、強姦(ごうかん)罪から強制性交罪、不同意性交罪と刑法改正が重ねられてきました。しかし今も裁判では同意をめぐって有罪か無罪か判断がわかれるケースがあります。なぜそうなるのか、「性的同意」のあり方や、法制度の課題について考えます。

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 元裁判官の水野智幸・法政大法科大学院教授は「疑わしきは罰せず、の原則に立つのは当たり前のこと」とした上で、犯人性や行為の有無ではなく、被害者や被告の行動や証言の評価が争点となることが多い性犯罪は「日常生活やこれまでの事件経験に照らして判断するため、裁判官の見方がわかれやすい」と説明する。

 現在の法制度で裁く難しさとして指摘されるのが、「故意」の立証だ。2023年の刑法改正で同意に主眼を置く不同意性交罪に名前が変わった。だが加害者の「故意」を立証することは引き続き必要とされ、加害者側が「被害者も同意していた」と誤って信じていた「同意誤信」の場合には処罰されない。

 一方、被害者は、トラウマから記憶が断片化したり、時間的感覚があいまいになったりすることが知見の積み重ねで明らかになっている。また、自分の身を守るために、第三者から見れば逃げられる状況にあっても、恐怖心から加害者に迎合するような振る舞いをしたり、従順な態度をとったりすることもある。

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 性暴力被害当事者でつくる一般社団法人「Spring」共同代表の田所由羽さんは「こうした知見を踏まえて当時の被害者の行動や証言を評価する裁判官がいる一方で、被害者が同意をしていた可能性を示す証拠として評価したり、記憶のあいまいな被害者の供述は信用できないと判断する人もいる」という。

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