《1958年、東京大学文科Ⅰ類に合格。故郷の町から列車を乗り継ぎ、1日半かけて上京した》
同級生の雰囲気には驚き、強い違和感を抱きましたね。法学部や経済学部へ進学するクラスだったせいか、如才のない人が多く、大学を将来の特権を得るための切符としか考えていないようにみえた。
哲学者・長谷川宏さんが半生を振り返る連載「持続する問い」、全4回の2回目です。(2024年4~5月に「語る 人生の贈りもの」として掲載した記事を再構成して配信しました)
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もちろん僕だって、そういう思いがあったのは否定できない。でも本物の学問との出会いを期待していたから、ずれを感じました。知らない人はいないような田舎町を出て大都会に暮らす孤独感もあったと思う。
そんな中、夢中になって読んだのがサルトルです。若さと不確かさに満ちた思想にしびれた。「ドイツの占領下にあったときほど、わたしたちが自由であったことはない」とか、線を引き、原文にあたってね。自由とは厳しい主体的な姿勢が課される。実存とは何か、下宿でひとり反芻(はんすう)する日々でした。
その年に起きた警職法(警察官職務執行法)の改正反対闘争のデモに参加したのも、彼の影響がある。学生の必読書だったマルクスを併読しつつ、小説にも戯曲にも手を染める幅広いサルトルにひかれた。
《3年時に文学部哲学科へ進学。ほどなく日米安保条約の改定反対闘争が国民的な盛り上がりをみせた》
衆院での強行採決など岸信介…