ベトナム戦争から帰還した夫は、全くの別人になっていた。
仕事が終わると基地内のバーでビールを飲み、家でもさらに酒をあおった。酒が入ると、人が変わったように爆発した。
テレビをひっくり返し、いすを投げつけ、拳を振り上げた。
妻のガーナー勝江(86)は殴られ、顔によく青あざができた。
いま米国ジョージア州に住む勝江は、夫のロナルドとの日々を振り返るとき、感情を切り離し、まるで自分のことではないかのように語る。起きた事柄だけをポツポツと口にする。
「子どもたちも夫のことは話さないし、私も話さない。思い出したくない」
「夫に関係するものは写真も何もかも全部捨てた」
「夫はふつうじゃなかった」
2人が出会ったのは、戦後の沖縄だった。
勝江が育った村は、1945年の沖縄戦で激戦地となった。7歳で戦争孤児となり、高校を卒業した後は沖縄の米軍基地のレストランなどで働いた。
そんなとき、米軍のパーティーで出会ったのが、四つ下のロナルドだった。結婚し、子どもを授かり、夫の故郷のジョージア州に移り住んだ。
しかし、「戦争」は、勝江を…