トゥクトゥク(三輪タクシー)の車体にあしらわれた、有名サッカー選手を起用した賭けサイトの広告。タイ語で書かれている=2024年10月27日、カンボジア西部ポイペト、伊藤弘毅撮影

 東南アジアの中心部に位置するタイ。経済力や治安水準の高さゆえに、陸続きの周辺国から多くの人がやってくる。一方で、タイから周辺国に向かう人びとの流れも存在する。その一例が、カジノでの享楽を求めるギャンブル愛好家たちだ。なぜ彼らは隣国を目指すのか。

【連載】カジノフロンティア 岐路に立つ東南アジア

人、カネ、そして犯罪までも。カジノは様々なものを引きつけます。それを手に入れた先に待ち受けるのは、経済的な繁栄か、それとも混沌(カオス)か。岐路に立つ東南アジアの実情を、各国の現場から報告します。

 首都バンコクから東に車で4時間の国境地帯。偽ブランド品の問屋街を抜け、仕事や買い付けでタイ側に向かう労働者の流れに逆らって歩く。トラックが列をなす国境ゲートの脇を抜け、入国審査場を通過すれば、そこはカンボジア側の街、ポイペトだ。

 この街に連日、タイから多くの客が訪れる。目当ては、国境に沿うように並び立つカジノだ。

 ある休日、タイ・カンボジアを結ぶ幹線道路沿いのカジノに入ってみた。玄関で手荷物検査を受ける。不正防止のため帽子を脱ぐよう促されたが、入場料は取られず、身分証の提示も求められなかった。ドレスコードもなく、Tシャツに短パン姿の軽装の客が目立つ。

 賭場にあふれる客の多くは高齢の男女で、東アジア系に見える。「ヘンヘン!」。カードゲーム「バカラ」の参加客が、口々にそう唱える。「グッドラック」という意味で、タイでは資本家層である中華系の人々がよく使う言葉だ。ある人はくわえたばこでみけんにしわを寄せ、ある人は貧乏揺すりをして賭けにのめり込む。時折、歓声が上がった。

カンボジア西部ポイペトのカジノには、タイ語の表示が至る所に見られた=2024年10月27日、ポイペト、伊藤弘毅撮影

「客のほとんどはタイから来ますよ」

 「客のほとんどはタイから来ますよ」。スーツ姿の従業員が言う。掛け金の支払いはカンボジアの通貨リエルではなく、基本的にタイ・バーツだという。店内外の掲示も英語や中国語とタイ語。カンボジア人従業員も流暢(りゅうちょう)なタイ語を話す。まるでタイにいるようだ。

 リピーターが対象のバンコク発の送迎サービスがあること。新規の客を連れてくれば、もうけの数%分を「手数料」として還元すること――。この従業員は、タイ人向けの様々な「特典」を耳打ちしてきた。

ポイペトにあるカジノの客たちは、どこから、どうやって、なぜ、この地を訪れるのか。記事後半では、カンボジアまで足を運ぶ日本人たちの声も紹介します。

 別のカジノでは、腕に入れ墨…

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