依存症専門医の常岡俊昭・昭和大医学部准教授=本人提供

 いったんはやめていた違法薬物を、再び使ってしまう。覚醒剤などの再犯事件が起きるたび、「やめる気がない」「一度手を出したらやめられない」とみられがちだ。

 私たちの体をむしばむ違法薬物。一度、依存症のループに陥ったら抜け出せないのか。

 しかし、薬物依存症の治療という視点からは違った側面が見えてくる。依存症専門医の常岡俊昭・昭和大医学部准教授は「薬物の再使用は回復過程でよく起きることで、適切なケアによって薬物はやめられる」と指摘する。

  • 薬物依存、7万円で見失った自分 それでも傍聴席で待つ仲間がいた

再使用せずに断薬…むしろ「運が良い」

 ――依存症の治療において薬物の再使用をどうとらえていますか?

 「意志が弱いからだ」と考える人もいるでしょうが、依存症は病気です。意志の力だけでやめられたら依存症ではありません。ぜんそくの発作と同じように考えてみてください。発作が起きないよう生活習慣などに気をつけますが、どんなに気をつけても完全に防ぐのは困難ですし、発作が起きたからといって本人を責めたりしませんよね。

 本人も「やめたい」気持ちと「やりたい」衝動の両方があって、揺れているものです。ダイエットしている人だって「食べたい」衝動にかられることはあると思います。薬物依存症の場合、薬理作用もあってその何倍もの衝動が押し寄せます。むしろ、「一度も再使用せずに断薬できた人は運が良かった」と考えるべきです。

 ――再使用した人にどう対応していますか。

 再使用自体は起こりうることなので、それによって「今までの努力はすべて無駄だ」などと勘違いから自暴自棄になって、治療の場から離れていくことを最も防がなければなりません。私たち医療者も含めて周囲が過度にがっかりしたり、怒ったりしないことが大事です。まず、正直に打ち明けてくれたことを評価したうえで、再使用があったとしても回復に向かって進んでいることを伝えます。そのうえで、薬物を使わないですむために何ができるかを一緒に考えるようにします。

 再使用がきっかけとなって、断薬へ前進することも少なくありません。

 覚醒剤と処方薬への依存が重篤な20代の女性患者がいました。

 「自力でやめる」と強硬に退…

共有
Exit mobile version