雷をイメージした黒と黄色の低床車両が滑るように走る。人々の目線を奪う奇抜なデザインの次世代型路面電車(LRT)は、これといった名所がなかった宇都宮駅東側の景色を一変させた。
「かつては畑が広がり、ぽつんぽつんと家があるだけだった」
宇都宮市で不動産賃貸業を営む阿久津正躬(まさみ)さん(78)は、自宅周辺の一変ぶりを驚きをもって見つめる。
1990年代後半から造成されたニュータウン「ゆいの杜(もり)」は、LRT開業と停留場の設置を見越して次々と住人が増え、ここ10年ほどで戸数は2倍以上に膨らんだ。スーパーや薬局、飲食店も集住に合わせて増え「農村から都市に変わった」という。
将来の免許返納を見越し、みずから車を運転して通っていた病院までの移動手段をLRTに変えた。阿久津さんは「車を運転しなくなっても、魚の背骨のような基幹交通が存在すれば安心だ」と語る。
開業1年に合わせた8月25日の記念式典。宇都宮市の佐藤栄一市長(63)は「これで終わりではない。公共交通を充実させ、環境に優しいまちをつくりたい」と力を込め、県都の中枢や繁華街が集中する駅西側への延伸こそ、事業の成否を分ける本丸と位置づける。
東北新幹線とJR宇都宮線、日光線などが交わる宇都宮駅東口から隣接する芳賀(はが)町の工業地域を結ぶ計14・6キロのLRTは、2023年8月に開業した。沿線には、ショッピングモールや大学はあるが、それ以外は、ほかの地方都市と変わらぬ住宅街や田園地帯が広がる。
そこに開通したLRT1年目の「成果」は、関係者を驚かせた。
渋滞対策から空洞化対策へ
開業1年余りで利用者数は5…