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大間はる香さん(左から3人目)と長男泰介さん(同1人目)、次男湊介さん(同2人目)、長女優香さん=家族提供

最大震度7を観測した能登半島地震。その日は2024年の元日でした。あの日、何があったのか。そして、その後の1年をどう過ごしたか。全4回の連載です。

 2023年12月29日の昼過ぎ。

 日本海を見下ろす山あいの実家に、大間はる香さん(38)は帰ってきた。

 金沢市の自宅から車で3時間ほどの石川県珠洲市仁江町。夫(41)が3列シートのワンボックス車を止めた途端、11歳、9歳、3歳の3人の子どもたちがはしゃぎながら駆けだしていく。

 引き戸が開く音とともに、祖父母や父母の「おかえりー!」という声が響く。

 居間のこたつの上には、山のようなミカンと、かごいっぱいのチョコがけのお菓子。はる香さんが手を伸ばすが、夫のペースが速い。「ずるい、すぐ取って。それ私が食べるから」と言うと、夫が「早い者勝ちやろ」と言い返す。母が補充に立つものだから、子どもたちの手も止まらない。「おかあさん、もう持ってこんといて」と笑うしかない。

 30日には、兄夫婦と今年生まれたばかりの甥(おい)っ子も加わり、築90年ほどの実家はいつもの4人から12人の大所帯に膨らんだ。

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2023年12月31日、珠洲市 4世代12人が一同に

 大みそか。朝8時ごろ、部屋着のまま、末っ子の湊介(そうすけ)さん(3)を抱えて、こたつに入る。

 母が用意していた「正月ごっつぉ」が目の前に並ぶ。大皿に、里芋、焼き豆腐、フキ、ニンジン、タケノコなど具だくさんの煮物や、かまぼこ。こたつの四辺からそれぞれが手を伸ばす。

 湊介さんの好物のホットケーキを、母が焼いてくれる。隣の台所と行き来しながら、何枚も何枚も。「もう食べれんよー」と母に声をかけた。

 おなかがいっぱいになると、子どもたちが食器を台所に運び、こたつの上も拭いてくれる。

 「実家に帰ってきても少し手伝ってよ」。夫が冗談交じりに言うが、「帰ってきたときぐらいゆっくりするけん」と答えた。

 警察官の夫は、この春から珠洲署の勤務で単身赴任中。「ワンオペ」での家事・育児の毎日で、一息つけるのはこんなときくらいだ。

 夕食も、やっぱり豪勢だった。調理師免許を持つ父が、ブリやタコ、イカやサザエをさばき、大皿いっぱいに盛ってくれる。

 祖母は茶わん蒸しや芋ダコ、大根なますを作って並べてくれる。かぶらずしもてんこ盛り。食べても食べても減らないみたい。少しお酒も口にして、夕食後には赤飯も。「食べ過ぎだよー」と声が漏れる。

 居間のテレビは「NHK紅白歌合戦」から「ゆく年くる年」に。今年もあとわずか。

 長男の泰介さん(9)もまだ起きている。

 午後11時59分。テレビに合わせて家族でカウントダウン。

 「5、4、3、2、1。明けましておめでとう!」「今年もよろしくお願いします」

 そうして家族は眠りについた。

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能登の風景=2024年6月21日、石川県能登町、金居達朗撮影

 迎えた元日。

 冬の能登には珍しく、外は明…

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