首相官邸の一室。緊急会議が秘密裏に開かれていた。安倍晋三元首相が銃撃され、死亡した事件から3カ月余。2022年10月18日午後のことだ。
首相秘書官や法務省、文化庁の幹部が議論したのは、岸田文雄首相の答弁の軌道修正だった。
「民法の不法行為は入らない」。同日午前、国会で世界平和統一家庭連合(旧統一教会)を巡る質疑があり、首相は解散命令の要件を問われ、そう明言した。
宗教法人法は「法令に違反して、著しく公共の福祉を害すると明らかに認められる行為」があった場合などに、裁判所が宗教法人に解散命令を出せると定める。裁判所に解散命令を請求できるのは文部科学省などだ。
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条文には、「法令」とあるだけ。刑法とも民法とも限定していない。
だが、オウム真理教に解散を命じた1995年の東京高裁の決定は「刑法等」とし、解散命令の判例として重視されてきた。法令違反による解散命令が確定したのはオウムなど2例のみだが、いずれも刑事事件として摘発されたケースだった。
旧統一教会には、高額献金問題などをめぐって民法の不法行為を認めた判決があるが、オウムのように教団の組織的な行為が刑事訴追されたわけではない。
このため文科省は、まだ例のなかった民法の不法行為に基づく解散命令請求に慎重な姿勢をとってきた。首相答弁も、その延長線上にあった。
安倍晋三元首相が銃撃され死亡した事件から、8日で2年。旧統一教会との関係が厳しく問われた中央・地方の政界における変容と、解散命令請求をめぐる政府内の水面下の動きをさぐります。「深流」シリーズの第4弾です。
内々に検討を始めていた文科省
だが、この頃、政府はその方…