愛され大使 中国「パンダ外交」はいま デザイン・山本美雪

 マレーシアの首都クアラルンプールにあるネガラ動物園。今年5月、ひときわ多くの観客が笑顔を見せている展示があった。

 木の遊具を登り、ごろんと横になったかと思えば、V字開脚して見せた。観客の目線の先にいたのは、パンダだ。

 パンダ舎を囲む手すりから身を乗り出してパンダを眺めていたマレーシア人のジャックさん(32)は「大のパンダ好き」。「スマホでパンダの動画を見るのが日課。かわいくて癒やされる」と話す。妻と年1回は必ず動物園に足を運ぶという。

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 ネガラ動物園にはオスのシンシンと、メスのリャンリャンの2頭が暮らす。2014年5月に10年間の期限で「友好の使者」として中国から貸し出されて来た。

 コストはけっして安くはない。現地メディアによると、マレーシア政府は中国側に対し、年間100万ドル(約1億4千万円)のレンタル料と1頭当たり5万リンギ(約160万円)の保険料を支払ってきた。

 さらに飼育のために月約10万リンギ(約300万円)がかかる。副代表のロスリーさんは「半分は電気代だ」と明かす。赤道に近いマレーシアは熱帯気候で、年平均気温は27度。暑さに弱いパンダのため、エアコンは24時間稼働だ。施設内は21度以下に保ち、空気清浄機も欠かせない。

マレーシアの首都クアラルンプールのネガラ動物園にいるパンダ。愛らしいしぐさを見て、スマホを向ける人たちも笑顔になっていた=2024年5月5日、リズキ・アクバル・ハサン撮影

 えさとなる竹の調達も手間がかかる。竹は動物園から約90キロ離れた農園で、パンダのえさ専用に特別に栽培している。

 だが、こうした苦労があっても、人気者のパンダは欠かせない存在だ。パンダの誕生日には動物園が果物や氷でできたケーキを用意。大勢のファンがお祝いに訪れる恒例行事となっている。

 動物園はパンダ関連費用を捻出するため、入場料を25リンギ(約830円)からほぼ倍に値上げした。それでも、昨年の来場者数は60万人を超え、高水準を保ち続けている。「パンダは収益に大きく貢献している。リピーターも増えた」とロスリーさんは説明する。

 そのパンダが、10年のレンタル期限を迎えた。パンダの去就をめぐるニュースも流れ、マレーシアのファンをやきもきさせてきた。

パンダがいる国=中国のベストフレンド

パンダは何カ国に、何頭貸し出されているのでしょうか?パンダ外交を相手国として見た外交官の話もふまえて、パンダ外交を読み解きます。

 カギを握るのは、対中関係だ…

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