澄み切った青空が包むスコアボードの真下、ファンファーレ隊が横一列に並んだ。
2023年8月6日、高校野球の「夏の甲子園」が始まる。
トロンボーンを構えた淀川工科高校(大阪)の立田和三朗(わさぶろう)さん(3年)は、父の浩介さん(53)の言葉を思い出した。
「めちゃくちゃ気持ちいいぞ、甲子園で吹くファンファーレは」
アルプスの夏音
誰かを応援する演奏の物語
同じ淀工の吹奏楽部だった父も、36年前にここでファンファーレを奏でた。小さいころから演奏会に連れられて行くうち、自分も同じ場所をめざすようになった。
選んだ楽器も同じだ。
「ただいまから、第105回全国高等学校野球選手権記念大会の開会式を行います」
場内アナウンスが流れ、観客のざわめきが静寂に変わる。
意識するのは、最初の音だ。
どんな音がいい?
迷いながら何度も、何度も練習してきた。
遠くまで音を飛ばしてみたり、甲子園を想像して吹いたりしてみた。だが、思うような音ではなかった。顧問の出向井誉之(たかゆき)教諭(56)の言葉が、決め手になった。
「舞台の主役は、高校球児だ…