塩野義製薬などのチームが、エイズウイルス(HIV)感染症の治療薬「ドルテグラビル」の発明で、2024年度全国発明表彰の最高賞である恩賜(おんし)発明賞に決まった。
候補となった物質の開発を2度にわたって断念。それでもより高い目標を掲げて挑み、薬が効きにくくなる「耐性ウイルス」にも強い化合物にたどり着いた。
世界に先駆け、新タイプの臨床試験
HIVの増殖には、「逆転写酵素」と「プロテアーゼ」に加えて、「インテグラーゼ」という酵素がかかわっていることが知られる。ウイルスのRNAからつくられたDNAを、ヒトの細胞中のDNAに組み込むために働く酵素だ。
同社は1990年、この酵素の研究に着手。当時、インテグラーゼを阻害するHIV治療薬は存在せず、開発を目指した。
社内にもつ化合物群の中から、候補となる物質をスクリーニングして見つけ、それを出発点として合成化学の手法で改良を進めた。
そして99年、最初の臨床試験に臨んだ。HIVインテグラーゼの阻害を目的とした化合物の臨床試験は世界で初めてとされた。
だが、第2相の段階で開発を断念。細胞実験で示された抗ウイルス効果が、ヒトでは十分に発揮されなかったのだ。
ウイルス抑える効果、十分だったが
より高い効果をねらって化合物の改良を続け、二つ目の候補物質による臨床試験を2006年に始めた。
前回と違い、ウイルスを抑え込む効果は十分だった。しかし、耐性ウイルスが出現しやすいという懸念があったうえ、1日に2回の服用が必要だった。当時、作用のしくみは異なるものの、1日1回の服用ですむ治療薬がすでに販売されていた。
新薬開発は、やはり臨床試験第2相の段階で断念せざるを得なくなった。2度目の挫折だった。
そのころ、ライバル企業がインテグラーゼ阻害薬を市場に出した。先んじて開発に着手したはずなのに、追い抜かれてしまった。
当時、創薬開発チームのリーダーだった川筋孝さん(現・創薬研究本部主席研究員)らの耳には届いていなかったが、社内ではこのころ「もうインテグラーゼ阻害薬の開発はあきらめたほうがいいんじゃないか」といった声も上がっていた。川筋さんは、そのことを後になって聞いた。
他社に追い抜かれ、より高い目標を
ただ、創薬チームにいた大司(たいし)照彦さん(現・プロジェクトマネジメント部部門長)は、それほど焦りは感じていなかった。
実は、さらに別の化合物の改…