• 写真・図版

 知床世界自然遺産(北海道)の知床岬で計画されていた携帯電話基地局整備事業が「凍結」となった。事業再開は斜里町内で「推進の合意形成」がなされることが条件で、ハードルは高く、実質的に再開は難しくなった。

 「凍結」を決めた11日の通信基盤強化連携推進会議の後、斜里町の山内浩彰町長は携帯電話の不感地帯解消の必要性は認めつつも、「町内外から反対の意見がある。いまの工事内容では推進の合意形成は図れない」と語った。

 羅臼町と一緒に携帯電話のエリア拡大の要望書を国に出していたため、「斜里町が翻意した」との指摘もあるが、要望書では「世界自然遺産知床の自然・景観の保護との両立」を絶対条件にしており、山内町長は「考えは変わっていない」という。

 羅臼町の湊屋稔町長は「携帯電話の不感地帯解消は漁業者の安心、安全を担保するもの。岬は中断となったが、やっぱり推進したい」と語った。衛星携帯電話については「通話にタイムラグがある」など不安定さを指摘。気象情報の把握や津波警報などの受信には「スマホがいい」という。ただ、「環境に配慮するということは大前提。それは斜里とも一緒の考え」とも話した。

 一方、約4万8千筆の反対署名を集めた斜里町民有志の会「知床の自然を愛する住民の会」の会長で、世界自然遺産登録を実現した午来昌・元町長(88)は「多くの人の知床への思いを感じることができた。ただ斜里に問題の責任があるような印象があるのはおかしい」。同会のメンバーの一人は「岬の基地局の規模も事業決定まで町民の多くが知らなかった。大切なのは透明性。それがなかった」と話した。

 オジロワシ研究者の東京農業大学生物産業学部(網走市)の白木彩子准教授は「環境省は岬地区の許可を出す前にきちんと環境アセスをやるよう事業者を指導すべきだった」と指摘する。

 今後は知床岬に近い羅臼側のニカリウス地区で計画が進む。高さ約10メートル、幅約17メートルの太陽光パネル設備が4基設置される計画で、高さはマンションの3~4階に匹敵する。知床岬の教訓から環境省が許可を出す前に時間をかけて環境影響調査をすることになった。

 白木さんは「大きな工作物を造れば必ず自然へのインパクトはある。希少種がいるからではなく、いるのか、いないのかわかないからこそ、きちんと生態系への影響評価をしないといけない」という。(奈良山雅俊)

共有