世界自然遺産・知床で進む携帯電話エリア拡大のための基地局整備について、北海道自然保護協会(在田一則会長)は15日、関係省庁や道、地元の斜里町と羅臼町に工事の着工を見合わせ、慎重な検討を求める意見書を提出した。意見書は日本自然保護協会についで2例目。道協会は特に知床岬での計画は「大規模」で国立公園の管理計画と矛盾すると疑問を呈した。
意見書では、岬地区の特徴的な植生や生態系、国の天然記念物のオジロワシの営巣地にもなっていることを指摘した上で、約7千平方メートルに及ぶ発電施設(太陽光パネル)の建設やケーブル類の埋設は「生物多様性や自然景観を大きく破壊すると予想され、看過できるものではない」とした。
環境省に対しては、同省が2023年10月に改定した「知床国立公園管理計画書」との整合性に疑問を投げかけた。
管理計画にある先端部地区の利用施設に関する事項では「一般の公園利用のための施設は設けない」としている。今回の携帯電話基地局と発電施設が一般の公園利用(公園利用者の安全確保も含め)のための設備であるとすれば「この方針に抵触する」とした。
また、発電施設の許可や届け出について、「太陽光発電については大規模なものは認めない」としている点を取り上げ、今回の知床岬での発電施設の規模は「一般的な感覚からすれば疑いようのない大規模なものだ」とした。
こうしたことから、工事の着工を見合わせ、知床世界自然遺産地域科学委員会や世界自然遺産の審査機関である国際自然保護連合(IUCN)に報告し、意見を聞くことを要望。「世界自然遺産かつ国立公園の極めて重要な特別保護地区の自然を破壊してまで利用者の要求に応えることには大きな疑問がある」とした。
この管理計画書の改定は知床半島の携帯電話エリア拡大へ向けたプロジェクトが進んでいる最中で、改定した翌月、通信事業者から太陽光パネル設備の規模やケーブル類の埋設ルートなどが記された計画書案が関係省庁などに内部資料として配布されていた。
在田会長は「岬の計画は明らかに大規模で管理計画と矛盾する。観光客は知床の聖地を少なくとも船から見られるのだから、少しの間、携帯を我慢できないものか。太陽光パネルの火災も危惧される。この問題は環境省の真価が問われる問題だ」と語った。(奈良山雅俊)