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iPS細胞からつくった角膜内皮細胞を移植するイメージ

 慶応大と藤田医科大の研究グループが、目の角膜が濁る「水疱(すいほう)性角膜症」の患者に、iPS細胞からつくった細胞を移植する臨床研究の結果を公表した。移植後1年の観察でも安全上の問題はみられず、視力の改善もみられたとしている。1月13日付で米医学誌「セル・リポーツ・メディシン」に論文が掲載された(https://doi.org/10.1016/j.xcrm.2024.101847別ウインドウで開きます)。

 水疱性角膜症は、目の「角膜内皮細胞」が傷ついて減ることで発症する。この細胞には角膜を透明に保つ役割があり、体内で再生しない。そのため、進行すると角膜が白濁して失明につながる。

 治療法として、亡くなった人の角膜を移植する角膜移植が以前から行われてきた。しかし、ドナー(臓器提供者)が少ない。世界的にも角膜移植の待機者は水疱性角膜症の人を含めて1200万人以上いるが、移植の実施数は年間18万人程度とされている。

 日本では新しい治療法として2023年、ドナーの角膜から細胞を培養して増やし、患者に移植する再生医療製品「ビズノバ」が承認された。ただ、1人のドナーの角膜から増やせる細胞数に限界があることが課題だった。

 慶応大などの研究グループは、さまざまな細胞に変化でき、ほぼ無限に増えるiPS細胞を使って、ヒトの角膜内皮細胞をつくる手法を確立。この細胞をつかった移植法の安全性と有効性を検証するため、22年10月、慶応大病院での臨床研究として、水疱性角膜症の73歳の男性患者への移植を行った。

 この男性は48年前、別の角膜の病気のために左目の角膜移植を受けていた。3年前から拒絶反応によって水疱性角膜症になり、今回の細胞移植前の視力は0.02で、眼鏡やコンタクトレンズで矯正もできない状態だった。

 研究グループによると、移植後1年の時点で視力は0.07。コンタクトレンズをつけた矯正視力は0.5まで改善した。拒絶反応などもみられなかった。

 一方で、移植する細胞の全遺…

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