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「ジャリおじさん」(福音館書店)
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 鼻の頭からヒゲが生えているジャリおじさん。ピンクのワニや、しゃべるかわりに太鼓を鳴らすおじさんもいる。いろいろな人と出会った先でたどりつくのは……? そんなナンセンスな世界が広がる絵本「ジャリおじさん」を約30年前に手がけた大竹伸朗さんは、いまの日本を代表するアーティストのひとりです。ジャリおじさんは、どう生まれてきたのか。絵本をめぐって、大竹さんが考えていることとは。じっくりお話を聞きました。

始まりと終わり、聖と俗が同居する

 出版社からの依頼で「ジャリおじさん」を描いていたころ、長女が幼稚園児で、妻のおなかに次女がいました。自分が子供たちに語る話を考えようとしたけど、教訓的なものは苦手。淡々と何も起きないで始まって、何も起きないで終わる話がいいんじゃないかと思いました。

 当時は、初めてパリで3人展を開き、ダダやシュールレアリスムへの興味が再燃していたころでした。ジャリおじさんの「ジャリ」は、フランスの劇作家・小説家のアルフレッド・ジャリから。容姿はジャリの戯曲「ユビュ王」の主人公に、僕が20代から良くしてもらっていた有名な美術批評家のピエール・レスタニーさんを合体させました。レスタニーさんのおなかの出た体形がユビュに似ていて、鼻の頭から毛が生えていたんですよ。

 「ジャリおじさん」

 福音館書店、1994年、発行部数4万8500部。鼻の頭にヒゲのあるジャリおじさんは、いつも海を見て暮らしていました。ある日、後ろを振り向くと、黄色い道が続いていて……。のそのそやってきたピンクのワニさんを旅の道連れに、ジャリおじさんのへんてこな冒険が始まります。

 1988年ごろから愛媛県の宇和島を拠点にしていますが、この物語は特に宇和島が舞台というわけではありません。海のそばの家から旅に出たジャリおじさんは、最後にまた海のそばに家を建てます。たどり着いた場所は、実は出発点と同じ場所でもある。始まりも終わりもない、ループ状になっているんです。

 一方、ジャリおじさんが出会…

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