かつて高野山への参詣(さんけい)の拠点や「パイル織物」産業の街として栄え、古い街並みが残る和歌山県橋本市高野口町。JR和歌山線高野口駅周辺に往時のにぎわいを取り戻す取り組みの一環として、古民家を活用した銭湯「高野口乃湯」が昨年末にオープンした。
番台に立つのは能登半島地震で被災した石川県からの移住者。温かい湯が地域の人たちをいざなう。
銭湯を運営する「合同会社湯原」の代表、湯原直子さん(65)は、1989年に大阪府東大阪市から橋本市に転居してきた。本業は合成樹脂シートやマットの製造・販売を手がける「興栄ケミカル工業所」の社長だ。
「銭湯の番頭募集」 SNS投稿に手挙げ
コロナ禍で本業の営業活動ができなくなった湯原さんは、橋本や高野口の駅周辺をくまなく歩き回った。すると、自宅前に所在なげにたたずむお年寄りたちの姿が目に入ってきた。
「行政は行政で、お年寄りの居場所づくりに尽力しているが、なかなかコミュニティーに入り切れない人たちもいる。民間の力で、世代を超えて寄り合える場所が作れないものか」
たどり着いたのが銭湯をつく…