レッツ・スタディー!演劇編③ 佐月愛果さん
舞台歴16年というNMB48・佐月愛果さん(22)が舞台芸術の魅力を紹介するコラム「NMB48のレッツ・スタディー!」演劇編第3回。今回は佐月さんの原点でもあり、憧れでもあるという「タカラヅカ」の、ある舞台について佐月さんがナビゲートします。
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舞台上、大量に組み上げられたイスが意味するものは
宝塚といえば宝塚大劇場(兵庫県宝塚市)や東京宝塚劇場(東京・有楽町)のイメージが強いかも知れません。しかし、それ以外に別の劇場で、ひと組から2、3手に分かれて公演をする期間もあり、通称「別箱」と言われています。
「別箱」では必然的に演目の出演人数が少なくなり、普段の本公演では後ろにいる下級生にたくさんセリフがあったり、中堅の生徒さんが主役級のお役を演じられたりと、別箱ならではの楽しみ方があります。
今回私が観劇し、紹介させていただく舞台も、この「別箱」作品の一つ。宝塚歌劇団花組公演「Liefie(リーフィー) ―愛(いと)しい人―」です。7~8月にかけて日本青年館ホール(東京)、梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ(大阪)で上演されました。
舞台は、オランダの小さな街。新聞記者として働く主人公は、聖乃あすかさん演じられるダーンです。
彼は「誰もが笑顔になる言葉」を探していて、そのために始めたのが街の人を取材したニュースの連載です。取材を通して、そんな言葉が見つかると信じていました。
ダーンが言葉を探すのは、幼いころに両親を亡くした、七彩はづきさん演じられる幼なじみのミラに笑顔を取り戻すためでした。
そんな二人を中心に、街の人々を巻き込みながら繰り広げられるロマンチックラブコメディーです。
幕が開いてまず驚いたのは、舞台セットが全て大量の椅子で組まれていること。
後にこの椅子は、「居場所」を表していると気が付かされます。
ヒロインのミラ、そしてミラと同じく幼いころに両親を亡くした青年レオだけが、劇中でこの椅子に座ることができません。それはつまり、この二人に「居場所がない」ことを表していました。
平和な物語の中に異質な存在 唯一の「闇」要素とは
この作品の演出を担当したのは若手の演出家さんで、今回が2作目だといいます。出演者も若手の生徒さんが多く、フレッシュさを感じました。
幕開けからとてもほのぼのしていて、「こんな平和な作品があるの!?」と驚いたほどに、登場人物全員が優しい心の持ち主。ロマンチックラブコメディーというだけあって、ロマンチックなセリフや演出の中に、様々なコメディー要素がちりばめられていました。
ただ、そんな中で一人だけ異質な空気を漂わせていたのが、侑輝大弥さん演じられるレオです。先述したように、彼もミラと同じく、幼いころに両親を亡くしています。
ただ、ミラの周りには幼なじみのダーン、同じく幼なじみのアンナ(真澄ゆかりさん)、祖父のヨハン(一樹千尋さん)、ほかにもたくさんの人がいて、孤独を感じていたレオはそんなミラに嫉妬していました。
1人だけセットの高台の上にいて、街の人々が楽しそうにしているのをねたましそうに、そしてうらやましそうに眺める。この作品では唯一の「闇」要素を持った登場人物で、平和な物語のスパイスになっていると感じました。
自分の「居場所」はどこか…舞台から投げかけられた問い
自分の居場所はどこか。それは私自身もアイドルとして向き合ってきた問いです。
アイドルには、最初から定められた居場所はありません。自分で見つけ出すしかないのです。まして、NMB48には個性豊かな大勢のメンバーがいて、それぞれが自分の居場所を模索しています。その中で、私だけの強みと、私にしかできないことを探し出すのは簡単なことではありません。それは孤独であり、悩み多き道のりでもあります。
色々考えぬき、「ここを私の椅子にしよう」と思って座りにいくと、そこにはもう別の誰かが座っている――。そんな世界でもあります。
8月27日、私はNMB48からの「卒業」を発表しました。ここが私のタイミングだ、と心に期するところがあったからです。
アイドルにならなければとても経験できなかった、夢のような4年間を過ごしました。
大好きなファンの皆さま一人ひとりと交わし合った言葉、メンバー仲間と泣いたり笑ったりした日々。苦手だった「かわいい曲」に四苦八苦しつつ取り組んだレッスン、人生で初めてチームをまとめる立場を任された「チームBⅡ」キャプテン時代。その間にも、役者として多くの舞台に立たせていただきました。
もちろん、うれしく楽しいことばかりではなく、葛藤も迷いも抱えながら進んできた日々でした。でも、今振り返れば、そのすべてがかけがえのない時間だったなと思います。
自分で決めたこととはいえ、アイドルとして残された時間もあと少しだと考えると、どうしようもなく寂しい思いにもとらわれます。「NMB48が私の大きな居場所だったんだな」と今、しみじみ感じています。
「卒業後」も演じる仕事に夢 新たな居場所を探す旅へ
卒業後は、アイドルになる前からもっていた大きな目標に立ち返り、舞台への出演を含む様々な「演じること」に挑戦していきたいと思っています。
演劇の世界では「自分の中にないものは出せない」とよくいわれます。私がアイドルとして経験した様々な感情や思い、身につけたパフォーマンスも、次のステップで生かせたらよいなと願っています。
一人の表現者として、再び、自分の「居場所」を探す旅が始まります。みなさまにも、どうか今後とも温かく見守ってもらえたら幸いです。
さて、「言葉」がテーマのこの作品。実はもう一つ、深く考えさせられる場面がありました。それは次回でご紹介します。
=第4回(9月19日配信予定)に続く
【写真】子役時代の佐月愛果さん
佐月愛果さんはアイドルにな…