写真・図版
有害鳥獣の猪に箱わなを準備する

 誇っているわけでも勧めているわけでもないが、わが家では、テレビが映らないのである。百姓や猟師や、いちおう執筆がこれでも忙しく、見る時間がない。契約をやめた。スポーツは好きだが、大谷翔平選手の大活躍もパリ五輪も、今年、1秒も見ていない。投票は行ったが、選挙特番は見ていない。

 したがいまして、今年話題になったというドラマ「虎に翼」も、紫式部を描いたらしい「光る君へ」も、1コマも目にしない。新聞記者としてあるまじき怠慢である。世界とかみあっていない。世捨て人とは、世を捨てた人のことではない。世間から捨てられた人のことだ。

 しかし、紫式部の原文で、源氏物語はまもなく読み終わる。3年前からこつこつ音読してきた。しつこく熟読してるのに、おもしろさはまだ分からない。読解力不足。だいたい主人公の光源氏が、じつにいやな野郎、食えない男ではないか。だからか。源氏の不遇の巻は記憶に残る。有名な左遷話もよかった。

 身から出たさびで京都を追われ、たいへんな田舎だった須磨に隠退する。恋愛ばかりでたいした仕事をしてそうもないのに、蟄居(ちっきょ)したらしたで恨み節の鬱々(うつうつ)人生。泣き言ばかり。そして権力の座に戻っても、不遇時に冷たくされた親族(恋女房の父)には、「こいつだけは許さない」と執拗(しつよう)なのである。

 笑っちゃう小物ぶり。人間な…

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