植物学者の牧野富太郎博士が発見したランの一種「コオロギラン」が持つ謎の部位の役割を、神戸大の末次健司教授(植物生態学)が突き止めた。130年越しの謎の解明を論文にまとめる際に、末次さんはあるメッセージを残した。

コオロギランの花=末次健司さん提供

 コオロギランはスギなどの林床に自生し、8~9月ごろに淡い緑と紫の色を帯びた小さな花を2、3個つける。牧野博士の手によるスケッチが、海外の著名な植物学者から高く評価されたことでも知られる。

 高さ10センチ程度の小さな植物だが、博士のスケッチには細かな構造まで、とても丁寧に描かれている。1889年の発見からずっと謎だった、わずか1ミリに満たない正体不明の部位もだ。

名前の由来にもなった謎の部位

 その部位は指が突き出たような形をしていて、めしべの先端「柱頭」の下にある。コオロギランの学名の一部「属名」には、この部位にちなみ「柱頭」「指状」という言葉が入っている。ただ、何のためにある部位なのか詳しいことはわかっていなかった。

 野外でコオロギランをじっくりと観察していた末次さんは、きちんと果実ができるのに、周囲に花粉を運ぶ昆虫が目に付かないことに気づいた。多くの植物は特定の昆虫などに花粉を運ばせて、別の個体と花粉のやりとりをする「他家受粉」を行うが、コオロギランにはそうした協力者が見当たらないのだ。

 末次さんは「謎の部位が受粉…

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