片山杜秀の蛙鳴梟聴
世界の隅々にまで目を凝らし、時代も国境も超えて人々を連ねる芸術の力を礎に、希代の音楽評論家が現代社会を読み解くクラシック音楽時評です。「蛙鳴梟聴(あめいきょうちょう)」は故事成語「蛙鳴蟬噪(あめいせんそう)」のアレンジです。蛙(かえる)のにぎやかな音楽に梟(ふくろう)のように静かに耳を傾け、世界を鳥瞰(ちょうかん)します。
クリストフ・プレガルディエン。ドイツのテノール歌手。彼が必死に歌う。いや、歌うというよりも語る。68歳だ。声に老いの影が忍び寄る。それをかえって武器にする。濁りを恐れない。地声を剝(む)き出しにする。きれいごとでない訴えが生じる。名歌手というよりも名優。しかもその表現が異様に緊迫する。叫びにまで達する。崖っぷちにでも追い詰められているのか。
5月24日、東京のトッパン…