連載「消えた聖地と研究者 中国・新疆ウイグル自治区の現場から」 リサ・ロス氏撮影 デザイン・小板橋茉子

 「外国人が来るには敏感な地域だ。引き返す」

 中国最西端、新疆ウイグル自治区のカシュガル中心部から車で3時間、間もなく砂漠地帯に差しかかるところだった。記者を乗せたレンタカーの運転手は低い声で切り出した。道中で当局の検問を受け、記者のビザと運転手の携帯番号を控えられた後、運転手には行き先を尋ねる電話が立て続けに掛かってきていた。

 目的地の「オルダム・マザール」があるとされる地点まで約15キロに迫っていた。マザールとは病気の治癒や子宝などを願うムスリムが参拝するイスラム聖者廟(びょう)を指す。新疆ウイグル自治区南部にはモスクのような建築物から墓のほか、木や泉、洞窟に至るまで様々なマザールがある。

【連載】消えた聖地と研究者 中国・新疆ウイグル自治区の現場から

2017年末、中国・新疆ウイグル自治区の大学教授が突然消息を絶ちました。彼女が残した論文を基に、研究対象だったイスラム聖者廟をたどりながら、独自の文化を築いてきたウイグル族が直面する現状を考えます。

 中でもオルダム・マザールは、ウイグル族の先祖で10世紀に仏教徒との戦いで殉教した伝説を持つアリー・アルスラン・ハーンをまつる。この地に暮らすムスリムが巡礼で目指した聖地とされてきた。

 信徒が持ち寄った赤・白・青の旗が砂漠の中でなびく姿は古くから欧州や日本の学者を引きつけてきた。

 近年、このオルダム・マザールを高く評価していた研究者がいた。

「いくつかの政治的事件」、そして禁じられた巡礼

 新疆大学の教授として教壇に…

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