海から出発しサトキくん(左)と利尻山を目指す=2024年4月2日、北海道・利尻島、本人提供

野村良太の山あり谷あり大志あり:11

2022年に前人未到の北海道分水嶺(ぶんすいれい)積雪期単独縦断を達成し、28歳で植村直己冒険賞を受賞した道内の山岳ガイド野村良太さんのコラム(紙面は北海道支社版掲載)です。

 海岸沿いに張ったテントから顔を出すと、東の空にはすでに太陽が昇っていた。波の音があまりに心地よくて、思わず朝寝坊をしてしまったようだ。振り返ると、これから登る利尻山(標高1721メートル)の山頂は薄い灰色の雲に隠れている。身支度を済ませると、スキーをくくりつけたザックを背負ったまま海水を一口なめて、山頂を目指して歩き始めた。

 「Sea to Summit(シー・トゥー・サミット)」(STS)という言葉がある。海抜0メートル地帯から山頂までを自力で登ることで、初めてその山を丸ごと登ったことになるという登山スタイルのことだ。それは山と海、そして両者をつなぐ川や森、ひいてはふもと町の文化を全身で感じることができる登山である。利尻島は島全体が独立峰として隆起した形をしているので、STSに最適な場所なのだ。

 海から歩き始めてすぐに除雪終点となる。4月とはいえ雪量は十分にありそうだ。ここからはスキーを履いて登高する。予報通りの強風にたたかれた雪は氷のように硬く締まり、標高800メートルで早くもアイゼンを装着せざるをえなくなった。強風にあおられながら急斜面を登り、8合目の長官山を越えて、風を避けられるところにテントを張った。

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 同行してくださったのは吉田…

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