小樽の「青の洞窟」でサトキくん(左)とカヤックトレーニング=本人提供

野村良太の山あり谷あり大志あり:13

2022年に前人未到の北海道分水嶺(ぶんすいれい)積雪期単独縦断を達成し、28歳で植村直己冒険賞を受賞した道内の山岳ガイド野村良太さんのコラム(紙面は北海道支社版掲載)です。

 6月某日、名古屋での登山イベントへ登壇依頼をいただき、それにかこつけて三重県は四日市市へ前乗りする。来春の挑戦「シー・トゥー・エベレスト」をともにする吉田智輝(さとき)さん(34)と合流し、四日市港の海抜ゼロメートル地帯からスタートする。港という単語から連想する風景とは程遠い工場群が出発点。背の高いコンクリート壁で仕切られていて、濁った海水には触れることすら許されない。

 海へ注ぐ三滝川に沿ってひたすら遡上(そじょう)すると目指す御在所岳(標高1212メートル)だ。川に沿って黙々と河川敷を歩く。途中から沢装備に切り替えて進むと、次第に空気が澄んできて、水が冷え、緑が鮮やかになってゆく。途中のキャンプ場で1泊。翌日も大滝小滝を越えて山頂をめざす。街の喧騒(けんそう)を抜けて、街を潤す水源の最初の一滴を望む。これぞ海から山頂への登山「Sea to Summit(シー・トゥー・サミット)」(STS)だ。

 およそ10日後、今度は小樽の赤岩山(標高371メートル)へ。岩場を前に互いをロープで結び、サトキくんとの連係を深める。いま相方はロープを手繰ってほしいのか、それとも伸ばしたいのか。あうんの呼吸は一朝一夕で身につくものではない。

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 翌日はカヤックで海へ。赤岩…

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