昨秋、その年初にあった能登半島地震の被災者約120人が仮設住宅で過ごす石川県能登町の「ふじなみ団地」を、早稲田大法科大学院の学生ら10人が訪ねた。

 集会所のお年寄りたちに声をかけ、まずは地震に遭った時の様子や、自宅の現状などを教えてもらう。打ち解けてきたところで、悩み事や今後の生活への不安がないか、質問を重ねた。

 「自宅は住めない状態なのに半壊と判断してもらえない」「公費解体のために大勢の同意書が必要で大変だ」

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石川県能登町の仮設住宅で、早稲田大法科大学院生たちが能登半島地震の被災者らの話を聞いた=2024年11月1日、増谷文生撮影

能登の被災地支援 学生は気づいた

 厳しい現状に、時に顔をゆがめながらメモを取る学生の多くは、翌週に司法試験の合格発表を控えていた。

 3年生の上野ほのかさん(24)は学生と異なり、一般の人と法律に関わる話をする難しさを実感したという。「見ず知らずの人と信頼関係を築くには、どんな話をすればよいのか。コミュニケーション力が重要だと改めて気づいたので、これから鍛えていきたい」と話した。

 同大学院は東日本大震災後、原発被災地で学生らが困り事を聞き、解決策を探る活動を続けた。これまでは福島県浪江町で原発事故の被災者を支援してきた。

 ほかにも、留置場で刑事事件の容疑者に接見したり、一般の人から法律相談を受けて訴状を作ったりしてきた。

 「困難を抱える人と実際に向き合うことで、実務で必要なことに気づかされる。法律家としてさまざまな活躍の場があることを知り、修了生の選択肢を増やすためにも重要」。実践活動を続ける意義を、古谷修一・同大学院長はそう語る。

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石川県能登町の仮設住宅で、早稲田大法科大学院生たちが能登半島地震の被災者らの話を聞いた=2024年11月1日、増谷文生撮影

 2004年度に始まった法科大学院は、まさにこうした現場体験による法曹倫理や責任感の養成を目的の一つに置いた。

 だが今、早大のような社会貢献活動に力を入れる大学院は減り、多くが司法試験重視の教育にシフトしたといわれる。

 ある法科大学院の教授は「司法試験に合格させるための教育ばかりになれば予備校と同じ。そうならないように社会貢献活動に取り組みたいが、全然できていない」と嘆く。

 裁判員制度と並ぶ司法改革の…

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