デモクラシーと戦争 インタビュー編⑥ 高須幸雄さん
「法の支配(Rule of Law)」と「法による支配(Rule by Law)」。言葉は似ているが、どう異なるのか。各国での「法の支配」軽視の傾向と、国際秩序の混乱とは関係があるのか。国連大使や国連事務次長として長く国連に携わってきた高須幸雄氏に聞いた。
高須幸雄さん
たかす・ゆきお 元国連大使。1946年生まれ。69年に外務省に入省。国連事務次長などを務め、現在、日本国際交流センター「民主主義の未来プロジェクト」主査、国連事務総長特別顧問、日本ユニセフ協会会長。
――「法の支配」とはどのような理念ですか。
「法の支配(Rule of Law)とは世界的に確立された概念です。1948年の世界人権宣言に『人間が専制と圧迫とに対する最後の手段として反逆に訴えることがないようにするためには、法の支配によって人権保護することが肝要』と記されています」
「具体的には、権力者も含む全ての人の『法の下の平等』を定め、言論・表現の自由、集会・結社の自由、政治参加の権利を規定。数による政治ではなく、少数者や人権・自由に配慮します。選挙で勝った者が統治に責任は持ちますが、政権の恣意(しい)的な支配を規制するため、権力行使には抑制と均衡が求められます。自由な報道、市民の政治参加、政府を批判する自由が『法の支配』の基盤となります」
- 自由から服従へ…壊される「法の支配」 現代の香港と、戦前の日本と
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――権威主義国家である中国の指導者も、「法治」を主張しています。
「権威主義・独裁国家でもルールが何もないわけではありません。ただ、権力者が自分の支配と権限を強化するため、大統領令や非常事態宣言などで市民を制約したり、ルールや法律を都合よく変えたりする。これは『法による支配(Rule by Law)』であって、自由や人権、少数者への配慮を基本とする『法の支配』とは全く異なります。『法治』という言葉は、強権政治の権力者が自己正当化のためにしばしば使います」
――世界各国での「法の支配」の現状をどう見ていますか。
「世界で権威主義へのシフト…