
奈良県は19日、総額5637億円の2025年度一般会計当初予算案を発表した。山下真知事は就任後2度目となる当初予算案について、「これまでの取り組みを加速化させる予算」と強調。公約に掲げた教育・子育て支援の充実を図るほか、観光振興や防災拠点整備などへの事業費が盛り込まれた。
総額は前年度比3・6%増。人件費や社会保障関係費のほか、県文化会館(奈良市)の改修など投資的経費も増え、過去20年で最大規模となった。財源不足を補うため、3年ぶりに財政調整基金を20億円取り崩す。
「次世代の育成は、我々に課せられた最も大きな責任の一つ」。この日開いた記者会見で山下知事はこう語り、教育・子育て支援の予算額が計107億円と前年度(86億円)から増額したことを強調した。
知事の看板政策でもある高校授業料の「無償化」(上限63万円)には、12億8300万円を計上。所得制限は維持する一方、年収910万円以上の「多子世帯」への支援(約6万円)は、対象を「扶養の子3人以上」から「2人以上」に拡充した。県独自の支援を受ける生徒数は全体で約8千人(前年度約5300人)に増えた。
公約に掲げていた所得制限の撤廃について、山下知事は、国の支援制度が拡充する可能性に言及。その場合は県の財源が捻出できることから「26年度から所得制限のない実質無償化が見えてくる」と語った。
新規事業では、不妊治療費助成を実施する市町村への補助(8800万円)や、ベビーシッター利用料助成を実施する市町村への補助(1800万円)といった肝いりの事業も始め、「公約に掲げた施策はほぼ達成される」と胸を張った。
ヤングケアラーの支援(2億6700万円)と発達障害児の支援(9300万円)については、前年度から増額。望まぬ妊娠や貧困で出産前からサポートが必要とされる「特定妊婦」らへの支援として、看護師や助産師に相談や面接ができる態勢も設ける(1200万円)。
前知事時代からの見直しを図った大規模事業については、西和医療センターの移転整備(2億5900万円)や「大和平野中央」(磯城郡3町)の土地活用事業(28億9100万円)を進める。一方、メガソーラーの設置を断念した五條市県有地では、防災拠点の整備(9900万円)を始める。
4月に開幕する大阪・関西万博では、奈良の魅力をPRする会場でのイベントや小中高生の無料招待などで計5億200万円を盛り込んだ。
行財政改革では、奈良公園で09年度から続く奈良フードフェスティバルを民間移行するなど計43事業(2億5700万円分)を廃止した。平城京天平祭などを廃止した前年度(37事業・4億1900万円分)と比べると金額は少なくなったが、山下知事は「私や総務部長、財政課長の査定で削っていくには限度がある。各担当が施策の新陳代謝を図る視点を持ってもらうのが非常に重要だ」と述べ、見直しの余地がまだあるとした。
同時に発表された24年度の2月補正予算案は総額128億円。累積赤字が137億円にのぼる県立病院機構の経営改善に向けた長期貸し付け費用として40億円が計上された。当初予算案と補正予算案は、25日に開会する2月議会に提案される。
■主な新規・拡充事業
◇公設フリースクール(1700万円)
不登校の小中生を対象に、オンライン上のメタバース(仮想空間)を活用した学びの場を整備する
◇学校での法律相談体制(500万円)
学校現場で起きた問題を相談できるスクールロイヤーの派遣体制を整備する
◇不妊治療費助成を実施する市町村への補助(8800万円)
保険適用外となっている先進医療などを用いた治療と、適用内治療の半額を市町村と補助する
◇「奈良のシカ」保護の強化(9200万円)
畑を荒らすなどして「奈良の鹿愛護会」管理の「鹿苑(ろくえん)」に収容される鹿の環境改善や、人身事故防止や公衆衛生確保のための職員を拡充する
◇奈良公園ナイトタイムエコノミー(1500万円)
観光客の夜間滞在を狙い、周辺の博物館・美術館の開館延長や夜間特別企画を展開する
◇世界遺産登録を目指す「飛鳥・藤原の宮都」(5億3700万円)
2026年の登録を目指し、県立万葉文化館に新たに県内の世界遺産について解説するエリアを設けるほか、魅力を発信するイベントを企画する
◇大阪・関西万博への無料招待(1億7千万円)
校外学習で万博を訪れる県内の小中高校などに対して、入場料を助成
◇ツキノワグマの動向把握(1千万円)
捕らえたクマにGPS計測機能付きの首輪を装着して放し、集落に接近した際にアラート通知されるシステムを構築する
◇脱炭素リーディングプロジェクト(800万円)
交通結節点での水素製造・水素ステーションの整備、県南東部での小水力による電力の地産地消の検討を始める
◇消防防災ヘリコプターの更新(26億9100万円)
県が持つ機体の老朽化に伴い、新機体を購入する