名人戦七番勝負が中盤に入り、夏の足音が聞こえてくる頃に次期順位戦の対戦表は公開される。今年も13日を予定している。
名人挑戦権を争うA級はどうか、あの若手とあのベテランが最終戦で激突するのか――。
愛棋家にとっては5階級の表を眺めるだけで心躍るものだが、どこを見ても彼の名前はない。全ての役者が出そろっているように見えて、メインキャストの一人であるはずの彼の名前はない。
2017年、十八世名人資格保持者がA級からの陥落を節目に、順位戦に参加しない「フリークラス」への転出を宣言した。偉大な名人が名人に復位するための旅を終えて以降、順位戦は大きな欠落を抱えている。
森内俊之九段、53歳。小学生時代からの盟友であり、奨励会入会同期でもある羽生善治九段(53)と名人戦で9度も激突し、通算8期の名人位に就いた大棋士である。
フリークラス転出後、やや低迷した時期もあったが、現在は完全復調している。竜王戦では最上級の1組に在籍し、進行中の王位リーグでは挑戦権争いに加わっている。
活躍すればするほど、つい夢想してしまう。
森内が順位戦を指し続けていたら、今はどのような場所で、どのような戦いを見せていたのだろうと。
4月下旬、名人戦七番勝負第2局で立会人を務めた十八世名人資格保持者に尋ねた。
7年前の決断について。
今、棋士として抱いている夢は何かと。
――対局者ではなく立会人としてでも、森内九段にとって名人戦は特別な舞台なのではないでしょうか。
森内俊之九段は語る。名人を争った羽生善治九段への思い、AI研究のこと、そしてフリークラス転出を決断した理由と、今の夢について。
「自分が将棋の世界に入った…