朝日新聞「声」欄に「いまも聞こえる ロックじゃねえ!」と題された一文を投稿した大学生と、投稿に登場する小学校教諭、そしてそれを読んで「号泣した」という俳優の松重豊さんが、神奈川県海老名市で邂逅(かいこう)した。間を取り持ったのは、自主夜間中学「えびなえんぴつの会」。まことこの世は合縁奇縁なり――。
ことの経緯はこうだ。
(1)東京都在住の大学生・森川葉の音(はのん)さん(22)が今年1月、「小学校を卒業して10年近いが、今も時折『ロックじゃねえ!』というしゃがれ声を思い出す。(略)6年生の時の担任だった先生の声だ」と書き出される「いまも聞こえる ロックじゃねえ!」を「声」欄に投稿。
(2)松重さんが、3月に放送されたNHKの番組で、「読んで号泣した」と投稿を朗読。
(3)それを見た記者がインタビューを申し込み、朝日新聞オピニオン面に掲載(6月8日付)。
(4)それを読んだ、自主夜間中学「えびなえんぴつの会」が、松重さんに講演を依頼。
(5)11月16日、「えんぴつの会」の誘いで、森川さんと、「6年生の時の担任」の林達之教諭(55)も来場。講演のあと、松重さんの仕切りで3人の「トークセッション」が繰り広げられた――。
「えんぴつの会」は、戦争の影響で勉強の機会を得られなかった高齢者や、不登校の中学生らに週1度、元退職教員らがマンツーマンで勉強を教えている。代表の廣田久美子さん(77)は元中学校の数学教諭。松重さんのインタビューを読んで感銘を受け、「ブレない生き方の基準について話してほしい」と、年に2回開いている「出前講座」の講師を依頼したという。
定員96人。松重さんにとっては初めての講演。来年1月に公開される映画「孤独のグルメ」を監督し、重責によるストレスから耳の聞こえが悪くなったというエピソードを披露した後、毎朝、コーヒーを飲みながら読んでいるという新聞への思いを語った。
新聞って、大事だと思うんですよ。スマホを開くと、当たり前のように知りたい知識がどんどんどんどん入ってくる。だけどフェイクニュースだったり、宣伝・誘導するための記事だったりがあふれていて、何を信じていいか分からない。やっぱり新聞に書かれた記事っていうのは、皆さんにお届けしていいものかどうか、いろんな人があらゆるフィルターをかけて精査して、それを毎朝毎夕、僕らの元に届けてくれるという、その信頼関係は絶対に崩したくないな、と。
そんな中で「声」欄の投稿に出会ったといい、「今も聞こえる ロックじゃねえ!」を朗読。そして――。
記事の後半には、3人のトークセッションや、「声」欄に掲載された投稿があります。
「失われた30年」と僕らの責任
「失われた30年」と言われ…