「よく来る」という街を歩く、兵庫県姫路市出身の会社員女性=東京都港区、小林正明撮影

 グーグルマップを開くと、都心で気になるお店につけたマークがびっしりと並ぶ。東京都港区で暮らす会社員女性(30)は、行ったことのない飲食店を巡るのが趣味だ。「地元に戻るつもりはないかな。東京には行きたい場所がたくさんある。便利で、自由で、居心地もいいから」

 高校卒業までは、実家のある兵庫県姫路市で育った。大学進学を機に、東京や神奈川で暮らすようになって13年目。転職をし、3社目となるIT系のベンチャー企業で働きながら一人で暮らす。

 都会への憧れは子供の頃からあった。地元では、「灘のけんか祭り」として知られる、みこしを激しくぶつけ合う祭りが毎秋ある。でも、祭りでみこしをかつげるのは男性だけ。女性はサポート役を求められる。「兄や弟は参加できるのに、自分は中心には行けない。そういう文化が嫌だった。ここには住みつづけたくないと思っていた」

 たまたま生まれた場所に居続ける、という感覚も合わなかった。「新しいことに挑戦したい、外へ飛び出したい気持ちが強かったから、自然と都会に心が向いたのかもしれない」

 一つ上の兄に続き、東京の大学に進学した。出会った人たちは、出身校も出身地もばらばら。誰ひとり自分のことを知らない環境が新鮮だった。「東京にいる人たちは、『選んでここにいる』感じがした。うわさ話が一気に広まる地元の狭さからも、解放された」

 交通の便の良さ、飲食店の選択肢の多さ、スポーツ観戦やライブ、観劇の機会に恵まれること。暮らし続けるうちに、東京の利便性を手放せなくなった。

写真・図版
2023年の都道府県別転入超過数

地方から若者を吸い込み、出生率を下げる「ブラックホール」と形容される東京。2040年に現役世代(15~64歳)が2割減る「8がけ社会」に向かう中、東京の「引力」が増すほど、地方の人手不足は加速し、少子化問題の解決を難しくさせる。7日投開票の東京都知事選は、そんな難題を問う機会となる。

 ただ、東京一極集中に無関心なわけではない。「問題だとはわかっている。姫路の未来も考えないと、と思うんだけど……」

 姫路市が2月に公表した予測では、2023年時点の市の人口約52万6千人を基準とすると、50年には約9万人(約17%)減少し、少子化の加速も懸念される。姫路駅周辺は近年再開発され、新しい駅ビルやホテル、大きな病院もできた。「住みたい街だと思ってもらえるようにがんばっているのは感じる」

東京だから守られている「自由」

 それでも、東京を離れるつも…

共有
Exit mobile version