地位や名誉、お金など、それまで大事にしてきたものが失われるときがある。だが、自分が本当に大切にすべきものは何なのか。稲荷山武田病院(京都市伏見区)の緩和ケア病棟で、患者の心のケアを担う「チャプレン」として働く笠原俊典さん(56)は、死と向き合うがん患者の多くがこの難問に直面すると話す。真宗大谷派の僧侶でもある笠原さんに、大切なものを見つけるにはどうしたらいいのかを聞いた。
――チャプレンとして、どのように患者さんと関わっていますか。
チャプレンは、教会や寺院といった宗教施設ではなく、病院などで働く宗教者のことです。スピリチュアルケアの専門職で、アメリカには、キリスト教の聖職者でチャプレンとして働いている人がたくさんいます。真宗大谷派の開教使としてハワイに着任した際に、宗教者にそんな役割もあることを知りました。
自分も門徒さんだけでなく、多くの人とかかわることのできるチャプレンとして働きたいと思うようになり、開教使をいったん辞め、ハワイの養成機関で学びました。
病院でのチャプレンの役割は、患者さんやその家族、ほかにも縁のある方々を宗教者としてケアすることです。私は仏教徒ですが、信仰を強要することはありません。僧侶として、苦しみの無い世界に生まれたい、本当の世界に生まれたいという人々の思いに共感し、患者さんと歩みを共にしていきたいと思っています。
失うことは大切なものを探すこと
――死に直面する患者さんたちが、それまで大切にしてきたものを失っていく姿を目の当たりにしてきたそうですね。
死に向かうことは、いろいろなものを失っていくことだと思います。社会的な地位、父や母という役割。大事にしていたお金という価値観。最後には身体機能も失われていきます。
でも、失うということは、自分にとって本当に大切なものを探すことでもあると思えるんです。
――失っていくなかで明らかになることがある、ということですね。
人によっては苦しみのない人もいますが、苦しみが強い人は、しんどくなってくると、ずっと起きているようでもあり、寝ているようでもあり、もうろうとするなかで、苦しみが延々と続いていきます。
患者さんから「身の置きどころのない痛み」という言葉を聞き、現実の世界にそんな痛みがあると知りました。その苦しみのなかで、生きることにどんな意味があるのか、問いかけられているのだと思います。
死に向かうがん患者と向き合ってきた笠原さん。記事の後半では、私たちが大切なものを見つけるにはどうしたらいいか語ります。
でも、それはホスピスにいる…