写真・図版
朝日歌壇選者の(左から)永田和宏さん、馬場あき子さん、佐佐木幸綱さん、高野公彦さん=東京都中央区、小林一茂撮影

 3月16日付朝日歌壇の入選歌40首をお届けします。選者は高野公彦さん、永田和宏さん、馬場あき子さん、佐佐木幸綱さんです。☆は共選作です。

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高野公彦選

 河口へと近づく川はいま海へ呑(の)まれんとして至福の汽水(福島市)美原 凍子

 アスファルトの下はすぐ土つい昔旅の役者や商人(あきんど)がゆきし(生駒市)辻岡 瑛雄

☆はや雪は二階を埋めんと降り積もる太郎も次郎も眠れぬほどに(光市)永井すず恵

☆こんもりと雪に埋もれた駐車場目星をつけて掘り出す愛車(富山市)松田 梨子

 雨らしい雨も降らずに三月半(みつきはん) 五風十雨(ごふうじゅうう)の言の葉恋し(常陸大宮市)和田 行男

 四国には新幹線は要らないと春の遍路を見るたび思う(観音寺市)篠原 俊則

 拉致家族どんな気持ちで聴いただらう総理の語る「楽しい日本」(三重県)藤井 恵子

☆尖ってはいるけど刺してはいけません箸の文化のやさしい掟(新潟市)太田千鶴子

 新しき卒塔婆を前に口遊(くちずさ)む妻の好きだった「早春賦」の歌(茨城県)渡辺たかし

 はしゃぐ孫叱ってくれる人のいてバスの中だけ昭和に戻る(秦野市)三宅 節子

 【評】1首目、海に呑まれる直前の川の陶酔感を詠(うた)う。2首目、直(す)ぐ身近な所にある人間の歴史。3首目、「太郎を眠らせ、太郎の屋根に雪ふりつむ。/次郎を眠らせ、次郎の屋根に雪ふりつむ。」という三好達治の詩「雪」を踏まえた作。

永田和宏選

 近づくと大きく口開け威嚇(…

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